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街とつながる小さな上映会「ALC CINEMA」

横浜・吉田町の一角にあるカフェArchiship Library&Caféで、若手映画監督の映画作品を上映し、監督と建築家がその映画にまつわるトークを行うイベント、ALC CINEMAが開催されています。
 



 

 

 

 

 

Archiship Library&Café(アーキシップ ライブラリー&カフェ)は、建築設計事務所である飯田善彦建築工房が事務所の1階を解放し、運営しているもので、これまで飯田氏が収集してきた建築やアート関連の本が壁一面の棚に並ぶ空間です。

通常はライブラリーカフェとして営業しており、客はドリンクを注文すれば、これらの本を自由に読むことができます。

 

Archiship Library&Caféの様子

 

ALC CINEMA(ALC=Archiship Library&Café)では、なかなか観る機会のない若手映画監督の初期作品が、この小さなカフェスペースを使って上映されます。

観客は毎回30名程度。本に囲まれたスクリーンに作品が映し出され、上映後は映画監督と毎回異なる若手建築家がその作品にまつわる一夜限りのトークセッションが繰り広げられるのです。

 

これまで4回開催されたALC CINEMAでは、瀬田なつき監督「彼方からの手紙」×建築家・藤原徹平氏、濱口竜介監督「PASSION」×建築家・中山英之氏、安川有果監督「Dressing UP」×建築家・三浦丈典氏、三宅唱監督「やくたたず」×建築家・家成俊勝氏といった組み合わせが実現しました。

 

ALC CINEMA上映中の様子

Archiship Library&Cafeは、映画館のように設備が整っているわけでは決してありません。外の通りを行く人の話し声が聞こえてきたり、自動車のライトが時に漏れ入るような環境の中、観客はスクリーンに映し出される作品と向き合います。そして上映後はその作品の温度が残った空気の中、共に作品を鑑賞した映画監督と建築家による対話が始まるのです。

 

ALC CINEMAの背景として「映画を街に開くこと」と「建築設計事務所を街に開くこと」があると、イベントの企画・運営を担う飯田善彦建築工房・Archiship Library&Caféの藤末萌さん、映画制作チームstudio402の大沢雄城さんは話します。

 

藤末萌さん(左)と大沢雄城さん(右)

 

元々2011年に横浜・黄金町で行われた映画プログラム「漂流する映画館“Cinema de Nomad”」にそれぞれ建築チームと映画制作チームとして関わっていた藤末さんと大沢さん。Cinema de Nomadは黄金町を舞台にした映画作品を、街に点在する上映会場を巡りながら体験する場を作る、映画を街に開いていく試みでした。その経験を通じて映画が体験を共有するツールとしてとても有効だと感じていたそうです。

 

その約1年後の2012年4月、同じ横浜で飯田善彦建築工房がArchiship Library&Cafeをスタートし、建築設計事務所を街に開いていくために映画にまつわる何かをこのスペースを使ってできないかという話が上がり、ALC CINEMAの企画が始まりました。

 

「映画監督と建築家のトークセッション付きの上映会にすることで、建築設計事務所の一角であるこの場所で行う意味を持たせることができるのではと考え、このような形式になりました」(藤末さん)

 

「映画はそもそも閉じた箱の中で上映するものという前提で作られるけれども、映画監督の中には街に対する面白い視点を持っている人がたくさんいる。それを建築家が対話の中で引き出すという形です。Archiship Library&Cafeのような開かれた環境で映画について話すことは、それ自体が映画を街に開いていく試みの一つになると思っています」(大沢さん)

 

上映作は「まだ作品数は多くないけれど、今この場所で話を聞いておくべきだと自分たちが考える」若手監督の初期作品、監督に対して建築家を決める時は「作風に共通性がある」という視点で、企画チームによる話し合いの中で選びます。

 

濱口竜介監督×中山英之氏のトークの様子

ALC CINEMAにはさまざまな主体がかかわっていて、誰かひとりの強いディレクションの元作られているのではなく、このイベントを共有した人の中からだんだんと次の候補が挙がってきて、即興的に上映作や登壇者が決まっていくと言います。

 

2013年11月に行われた第4回ALC CINEMAでは、三宅唱監督の長編処女作品「やくたたず」(2010)が上映され、建築家の家成俊勝氏と三宅監督のアフタートークが行われました。

三宅監督の出身地である札幌を舞台に、約2週間で自ら撮り上げた、コントラストの強いブラック&ホワイトの画に引き込まれる本作品。

 

約80分間の上映後は、ローコストのセルフビルド建築「Umaki Camp」を瀬戸内海・小豆島で手掛けた家成氏と、三宅監督、モデレーターの藤原徹平氏の間でトークセッションが開催され、「すべてを自分たちでつくる」意味やその苦労、モノクロームの風景が生み出す映画固有の時間感覚、地域に根ざしてものをつくる可能性などに、話が及びました。

 

三宅唱監督(中央)と家成俊勝氏(左)によるトークセッション

 

「トークの内容は毎回多岐に渡るのですが、映画と建築の作り手の親和性が高いというのは、回を重ねて改めて実感しています。視点が似ていたり境遇が似ていたり、共通点の話はよく話題に上がります」(藤末さん)

 

ALC CINEMAは、普段見られない貴重な作品が鑑賞できることはもちろん、この小さなスペースだからこそ体感できる映画との距離感、そして上映後すぐに始まる建築家と監督との対話により、自らの映画体験が深まっていくその場限りのライブ感が醍醐味です。

 

そこには観客と監督、映画と建築といった枠組みを超えた、同じ空間と時間を共有する者同士の不思議な一体感があります。

「監督も建築家もお客さんも、みんな最初はその作品の観客という対等な立場で映画を鑑賞し、その延長線上でトークが始まります。明確なステージのないこの規模だからこそ、『場を共有している仲間』というフラットな関係性ができる。これは監督にとっても普段はできない特別な体験となるのではないでしょうか」(大沢さん)

 

監督も建築家も観客と共に映画に向き合う

 

観客は、映画監督のファンなど映画に惹かれた人、建築家の話を聞きたい人、両方の系統が訪れているそうです。

 

「映画が好きな人も、ここに来て建築のことに触れたり、この場所や街に興味を持ったりする。反対に建築系の人は映画に興味が広がっていく。ALC CINEMAを媒介として、そうした目的以外のものとの偶然の出合いが生まれることを期待しています」(藤末さん)

 

 

今後は、より街と連動していくことを目指しています。

 

2月2日に行われるALC CINEMA vol.5は、冨永昌敬監督の初期作品「ビクーニャ」の上映と、建築家・鈴木了ニ氏によるトークセッションを、吉田町かもめ大学が主催するイベント「吉田まちなか映画祭2014」に合わせて開催。

これは個性的なバーの多い吉田町で「お酒」に関連する映画を3日間街の各地で上映することで、映画と町を一緒に楽しんでもらおうという趣旨の映画祭で、ALC CINEMAも提携イベントとして参加します。

 

「観客も出演者も、そして企画側の私たちも楽しみつつ、気がついたら興味の幅やネットワークが広がっている。そんな軽やかさの中で継続してけたら」と藤末さんと大沢さん。

 

映画や建築、街との新しい出合いを求めて、横浜・吉田町の小さな上映会に訪れてみてはいかがでしょうか。

 

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ALC CINEMA vol.5

日程:2014年2月2日(日)19:00開場 19:30開演

料金:¥1,500 / 1ドリンク付き

場所:Archiship Library&Café 横浜市中区吉田町4-9

上映作:「ビクーニャ」(2002年|DVcam|36分)

  監督・脚本・編集:冨永昌敬

  撮影:月永雄太

  音響効果:山本タカアキ

  出演:嘉悦基光、榎本愛、複津泰至、杉山彦々、木村文他

アフタートーク:冨永昌敬[映画監督]×鈴木了ニ[建築家](モデレータ:藤原徹平[建築家])

詳細はこちら

ALC CINEMA Facebook

ALC CINEMA twitter

吉田まちなか映画祭2014

街中で映画祭!?お酒とともに街のあちこちで映画が楽しめる3日間。バーがたちならぶ吉田町ならではの新しい試みです。

日程:2014年1月31日(金)~2月2日(日)

会場:十六夜吉田町スタジオ/横浜市中区吉田町4-9 ほか

詳細はこちら

writer profile

玉木裕希 (たまき ゆき)
編集者修行中。1986年生まれ。横浜国立大学大学院修了。建築系出版社に勤務しつつ、興味の向くままそこかしこに出没。