森と人との受け皿「森をひらくこと、T.O.D.A.」
栃木県、那須塩原市。市街地を抜けると、すぐに道路の周りはすぐに雑木林になります。
この辺りは、もともと植林によって作られた森です。
「森をひらくこと、T.O.D.A.」は、道路を脇に少し入ったところにあります。
「森をひらくこと、T.O.D.A.」代表の戸田香代子さんは、元々那須で、様々なボランティアに参加してきました。そのひとつが、2010年に那須の街を舞台に開催されたアートフェスティバル「スペクタクル・イン・ザ・ファーム」だったのです。参加アーティストの一人、美術家の豊嶋秀樹さん(gm projects)のインスタレーション会場を探すうち、お父様の貸別荘が誰にも使われず廃屋になっていたのを戸田さんは思い出しました。後に「森をひらくこと、T.O.D.A.」ができるこの場所を、豊嶋さんに会場として提供します。
作品制作のため、毎週末、那須を訪れる豊嶋さんとこの森のこれからについて話すうちに、「人々が集い、森を再生するための拠点をこの場所に作りたい」と考えるようになりました。
また戸田さんは、スペクタクルイン・ザ・ファームに関わる人達が森の中で楽しむ姿を見て、森にギャラリーを建てたいと考えるようになり、スペクタクルイン・ザ・ファーム実行委員の一人に相談をしました。そして作品制作のため毎週末那須を訪れる豊嶋さんにも「この森に人々が集い、森を再生するための拠点となるものを作りたい」と話しました。 豊嶋さんは、戸田さんの話に同感し、一緒に森を再生するメンバーとなったのです。
起ち上げメンバーは、もともと豊嶋さんの知り合いでスペクタクルイン・ザ・ファームに関わっていた人達2名と豊嶋さん、戸田さんの4名でした。
スペクタクル・イン・ザ・ファームが11月の末に無事終わり、翌月の12月から「森をひらくこと、T.O.D.A.」オープンに向けての活動が本格的にスタートします。
どういう場所にしようか、と話し合っているうちに「森を再生するためだけではなく、森と人との関係性をもういちど見直す場所」そして「学びの場」というコンセプトに決まりました。
「森と人との関係性って難しい言葉ですけど、昔は、落ち葉をさらって農家が堆肥を作ったり、木を薪にしてストーブに使う、炭を焼く、しいたけを育てる、下草を刈って自然の木が生えやすくなる場所をつくる、といったように、皆が山や森と関わりを持っていて、そこから恵みを受けて綺麗に保っていたんです。でも、それはとてもお金や時間のかかる作業でした。そのため高度経済成長期の頃から、効率性を求めて誰も森を顧みなくなったのです。でも、そのままじゃダメだと思っていました。それで、お金がかかっても森や山をきれいにして、人が集まってコンサートをしたりして、集まったお金を森に還元できたらと考えています」と戸田さんは話しています。
3月に起きた東日本大震災も「この場所に、絶対に森を再生するための拠点を作る」という信念を貫いて乗り越え、9月にオープンを迎えることができました。1ヶ月にわたるオープン企画「School of T.O.D.A―森に集う人、人が集う森―」には、地元だけではなく東京からも多数の人々が訪れました。
現在、T.O.D.A.には、2つの建物があります。
1つは、オープンプレイス。鳥の巣箱のような形をしたイベントスペースで、展示やワークショップ、コンサートや撮影スタジオなど、様々な用途で使用されています。オープニング企画の際にもレクチャーやコンサートの会場として利用されました。
4月からは、様々な分野で活躍されている講師を招いて行う学校スタイルのイベント「School of T.O.D.A.」や美術作家佐々木愛さんの作品展「Landscape Stories」が開催される予定です。
スピーカーは、通常のものとは違い、12面体の手作りのものを使用しています。音が一方向からだけではなく、壁に反響してあらゆる方向から聞こえてくるようになっていて、心地よく、優しい音が建物中に響き渡ります。
- 建物内の様子
オープンプレイスは外にも注目するポイントがあります。なんと、屋根から噴水が出るのです。
それは、このあたりは昔、水を引くのにとても苦労をした歴史があるからです。しかし、今はそのことを忘れたのか、用水路にゴミを捨てても気にとめる人もいないのです。蛇口を捻れば水が出ることはとてもありがたいこと、それを忘れないで欲しいという思いが詰まっています。
もう1つの建物は、キッチンスペースです。
プランターをイメージしたこの建物では、フードコーディネーター・冷水希三子さん考案のオリジナルメニューを楽しめます。食を通して森とつながって欲しい、という思いから、お客さんが自分で即席のジャムを作れるというメニューもあります。
ほかにも食育に関するワークショップなども、企画したいそうです。
これから、小鳥の巣をイメージした丸い「ネストプレイス」という建物ができる予定です。
これは単なる宿泊施設ではなく、長期間この森の中に泊まる、また住んでもらえるような場所を目指しています。)
もちろん、滞在期間中は、那須の街を観光してもよし、T.O.D.Aの活動に参加してもよし。どのように過ごしても自由です。「単に旅行気分で泊まってもらうよりも、そのほうがこの土地について知ってもらえるのではないか、と考えています」と戸田さんは語ってくれました。
将来的には、この森でお客さんと一緒に木を切ってプロダクトを作ったり、電気を使わない木造の温室でハーブを育てて、キッチンプレイスでハーブティーや料理に使いたい、とのこと。
人の手によって作られ、忘れられた森。
そんな森を、明るく開かれた場所に変えていこうという、戸田さんたちの取り組みや、季節によって移ろう風景は、いつでも私たちを受け入れてくれます。
今までとは違う森との関係性を、あなたも築いてみませんか。
※「森をひらくこと T.O.D.A.」では、4月27日(土)~5月26日(日)に開催される美術作家佐々木愛さんの作品展に先立ち、「ロイヤルアイシングのワークショップと作品のお話」というイベントを開催する予定です。
佐々木愛さんの代表的技法「ロイヤルアイシング」を用いて小さな作品を作るワークショップと、「森をひらくこと T.O.D.A.」ディレクターの豊嶋秀樹さんらが登壇するトークの2本立て。
詳しくは「森をひらくこと T.O.D.A.」公式WEBサイトにて。
芽生えの予感がする森へ、どうぞ皆さんお出かけください。
writer profile
1992年生まれ 後楽園⇔神楽坂他 ドリフターズ・マガジン編集長