リレー式インタビュー 成果リレー vol.3 川本尚毅さん<前篇>
――大野さんから川本さんにバトンを渡していただきました。まずは川本さんをご紹介いただいた理由をお聞かせいただけますか?
大野:最初は知人の紹介でハンマーヘッドスタジオ…(注)を訪れたときに、川本さんに案内していただきました。お互い3Dモデリングを使ったデザインをしていて使っているソフトも同じだったので、意気投合したんです。
そこから交流が始まり、川本さんから「色んな形のORISHIKIをつくるのにひとつずつ手作業でモデリングしていて大変なので、自動的にORISHIKIを設計するプログラムがつくれないか」というご相談をいただき、僕とOrange Jelliesの堀川淳一郎の2人でそのプログラムをつくることになりました。そして、「ori-con」というORISHIKIの自動生成ソフトを作り、2012年のデザインタイドで展示しました。それが最初のコラボレーションですね。
僕らはソフトウェアのUIデザインやグラフィックデザインをして、その場でデモンストレーションができるようにコントローラーを製作しました。2回目は、僕と砂山太一さんで企画したマテリアライジング展で、企画者と展示者という関係でご一緒しました。テクノロジーを使って新しい表現にチャレンジしているクリエイターさんの作品を集めて展示するというコンセプトだったので、デザイナーである川本さんに是非展示してもらいたいと依頼したんです。
その後も3Dモデリング界隈でご一緒することも多く、ご縁があったのとますますご活躍されているので、今回ご紹介したいと思った次第です。
――それでは川本さんがこれまで手がけられてきた作品について、ご紹介いただけますか?
川本:これはORISHIKIといって、折り紙のように折りたたみながら風呂敷のように包みこんで持ち運べる鞄・ケースです。ORISHIKIのシキにはもうひとつ意味が込められていて、「○○式」といった方式を使うことで色んなものが包めるフォーマットとして捉えています。こちらのクラッチバックは、サイドにロックをかけて上のところだけ開けることで、物を出し入れできます。ORISHIKIを平らな状態で板にはめ込んで発送すれば、輸送コストや倉庫のコストを減らすこともできます。
(注)…ハンマーヘッドスタジオとは横浜市文化観光局の委託を受けてNPO法人BankART1929・新港ピア活用協議会の共同事業体が運営している期間限定のクリエイターの活動拠点
ORISHIKI ハンドバッグ
川本:三角形の面の数や角度について何度も実験しました。安定性と生産性を考えて、当初のモデルよりも三角形の面の数を減らしています。ただ三角形の数を減らしすぎると結晶体として面白くないので、三角形の数を今は16個にしています。この数は、あまりシンプルになりすぎず多角形の結晶体をちゃんと残しつつできる絶妙な数というところです。それぞれの三角形がどんな角度で構成されていると手にしっくりくるかという指のあたりも考えました。ランダムに形成しているように見えて、現在のこの形の他に作りようがないのかなと思います。このように使い勝手と美しさをどの程度両立させるのかをこだわりました。
現在は、土岐謙次先生という、宮城大学で漆工芸とデジタルファブリケーションについて研究をされている方と一緒に新しいORISHIKIの製作を進めています。高価なものになってしまうんですけど、世の中に一つとしてないものなので嗜好品としての販売を考えており、まずは商品として完成させてから一緒にやっていける会社を見つけて量産にステップアップしていければいいなと思っています。
また、色んな素材でも作れることをみせたくて漆だけでなく、アルミや木でも作りました。ORISHIKIを商品化するために会社をつくったところがあるので、クライアントワークをやりながらORISHIKIを少しずつ発展させていきたいと思っています。
宮村:日本特有の工芸を大事にしたいという意識もあるんですか?
川本:日本特有の文化って、折り紙とか漆とか風呂敷とか、結構あると思うんです。ただそれらをそのままの状態で海外にもっていっても文化が違うので、日本の伝統だからといってもあまり波及しないと思うんです。日本にある考え方や使い方を新しいプロダクトに昇華させて、海外の人がオッて思うような新しいものをつくって応用していくべきじゃないかなと。そうするとMade In JAPANである意味がでてきて、それがブランドになる。価値が生まれる。こんな風にMade In JAPANであることが付加価値になるようなものを生み出していけると面白いなと思います。
――折り紙や風呂敷に興味をもつようになったきっかけは?
川本:きっかけは、イギリスの大学院時代ですね。当たり前に遊んでいたものが実は興味深いものだと日本にいる間は思っていなかったんです。海外にいってみて、何か面白い新しいものを生み出していかないといけないという環境の中で、自分たちが持っているリソースが意外に潤沢だってことに気づきました。持ち味をだして戦わないといけないというときに、何があるだろうと色々考えました。その過程で、折ったり畳んだり包んだりということは面白いし、新しい技術との親和性も高い。これを何か生かせないかなというのがスタートです。A4の紙でそこらへんにあるものをグシャと包んで、広げると皺がついているじゃないですか。これをもっとロジカルにシステム的にして、よりプロダクトに落とし込んでいったら、こういうカタチになったんです。たぶんやけくそだったんです。追い込まれる状況になると変な力がでるんです。圧縮されて、パッとでたものが実は結構貴重なものだったりします。良い意味でプレッシャーを与えられて、自分の持っていた有効に使えるリソースに気づかせてもらったのはよかったですね。
――大野さんと一緒に開発されたORISHIKIを生成するシステムについて先ほどお話がありました。その辺のお話をもう少し詳しくお聞かせいただけますか?
川本:エンドユーザーの希望するオブジェクトに合わせて自由にORISHIKIが作れたらと考えていたんです。そして、大野さんたちのご協力のもと、包んで運びたいオブジェクトを3Dスキャンして、そのオブジェクト専用のケースを自動的に計算し生成するori-conというソフトをつくりました。 出来あがったのはデモンストレーションのためのベータ版ですが、概念をまず説明することが大事かなと思い、デザインタイドで展示することにしました。デジタルファブリケーションという3Dプリンタなどの技術が進化しているなかで、フォーマットの部分はまだ模索されている状況です。そこで、日本の展示会でORISHIKIのようなフォーマットがローンチされることに意味があるんじゃないかなと思いました。
まだ大きいものを包む際には色々と問題があるのですが、こういう未来があると面白いよねということで発表しました。デジタルファブリケーションを用いて、ソフトウェアで自由に生成したORISHIKIを実際にカタチにするという未来を描いたんです。用途は沢山あると当初から思っていました。腕を3DスキャンしてORISHIKIをまとったり、服全体をスキャナしたり、空間を入力すればランドスケープが立ち上がるなど用途をプロダクトや服に限定しないで考えるとさらに発展性があります。デジタルを実際の生活に落とし込んでリアリティのあるストーリーとして提案できれば面白いなと思っています。
大野:僕が一番画期的だなと思ったのは、近未来にファッションブランドなどのお店に行くと3Dスキャナがあって、自分の包みたいものをスキャンしてもらうと工場までそのデータが送られ、工場から直接ORISHIKIが発送されるといった一連の流れです。こういった提案は、新しいプロダクトデザインの可能性を作ろうとしているんじゃないかなと感じています。
――イッセイミヤケさんとのコラボレーションしたBAOBAO「Distortion」についてもお聞きしたいです。デザインタイドでの展示を見て、お声掛けがあったんですか?
川本:2012年のデザインタイドの後にBAOBAOの方から「見させていただいて、一緒にやってみたい」とお声がけいただいたのが始まりです。サイドのロックをどうつけるのか、どこにどういうボタンを付けると良いか、開けたときの力がバーの方にかからないかなど、何度も議論しました。実は、上の留め具についても悩みました。僕らの鞄は3次元にツイストしながら空間でエッジが交わるんですが、それを上手く止めるための金具をどういうものにするかが難しかったです。説明書は一切なしで組み立てられる鞄を考えました。最初のコンセプトに「ゆがみ」があったので「Distortion」にしました。これにはゆがみや曲解という意味があるんですが、BAOBAOの鞄を勝手に僕が曲解した結果がこれですね。
――1番こだわったのは?
川本:平面が立体になるのを、どう簡単に実現させるかという部分ですね。最初は縫って鞄として出そうという話もありましたが、平らな薄いものが立体的な鞄になるというその不思議さが一番面白いよねと話をし、そこを前面に打ち出すためにお客様が簡単に組めるように試行錯誤しました。そこだけは死守しようと。お声がけいただいたのが2013年の頭で、Distortionが発売されたのが2014年6月でした。組み立て式を考えるのにすごく時間がかかりましたね。お蔭様で反応が沢山あったので、今年、追加で海外でも販売されるようです。また、本来はコラボだけで終わる予定でしたが、スピンオフして一部継続して関らせていただくことになり、これは本当に楽しみですね。パターンから作ったのはBAOBAOのコラボの中でも、僕たちだけだったそうです。
――コラボレーションで新たに発見した点は?
川本:やはり、布という素材は振る舞いが全然違いますね。硬いものだと余地が少ないですが、布だと完璧でなくても吸収してくれる余地がある。あとは、業界としても違いますよね。商習慣とか、プロセスの違い、重要視されるポイントも違いますし。ただ、僕らみたいに違う業種の人間が入ることで可能性も広がり、業種を超える面白さ、大変さは感じました。一番嬉しかったのは、発売日に普段はお会いする機会のないファッション業界のキラキラしたお姉さん達が「黒と黄色、どっちがいいかな?」と選んでいる姿を実際にみたときですね。自分たちの作ったものが、そういう次元で「迷っちゃう、かわいい」と言ってもらえるのは、嬉しかったです。
――身につけることのできるファッションの分野は、分かりやすさやとっつきやすさがありますよね。
宮村:川本さんの作品を拝見したときに、グラフィカルな視点でも好きな世界だったんです。今日お話を聞いて自分が勘違いしていることに気づいたのですが、3Dを2Dにポリゴン化してORISHIKIがつくられたのではなくて、2Dの方から立ち上げていくというアプローチだったんですね。
川本:そうなんですよ。イッセイミヤケのBAOBAOとは、アプローチが逆なんですよ。あとは今プロジェクトに参加させて頂いています。制作しているのは世界初の3Dプリンタで製造したロードレース用の実用自転車があります。3Dプリンタでパーツを作っていて、全部三角形で構成されています。自転車は乗る人の腕の長さ、体の硬さによって変わってくるので、将来的にはその人にあった自転車を3Dプリンタでオーダーメードで作れるようになればいいなと。
――現在の仕事内容はどういったものですか? 自分で企画するのじゃないものも増えてきているんですか?
川本:そうですね。設計の部分だけを担当する仕事もやっていたりします。グラフィックの仕事もやっていますし、アーティストの企画を具現化するお手伝いもしていますし、ほんと何でもやっているという感じ。造形大の時に外に出て何となく気付いたことなんですけど、デザイナーとかクリエイターとかってお金の入り方やクライアントとの関係が人それぞれ違っていて、業態がバラバラなんです。その中で何を売るのかどういう形で利益を得るのか、どんなものを生み出すことで会社として続けるのかといった自分なりのビジネスを築き、社会との関わりを構築できて初めてクリエイター、デザイナーと名乗れるのかなというのが最近すごく思うことですね。色々なリアリティーのある細々した問題をクリアしていきながらも、それでも面白いことをどんどんやっていくというのが今一番大事にしているところですかね。
――後篇へ続く――
writer profile
1989年生まれ。大阪府出身。