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オシャレとストイックが共存するカフェ BUNDAN

10月2日(火)、駒場公園の日本近代文学館に新しいカフェ、BUNDANがオープン。 仕掛け人でもある東京ピストルの草なぎ洋平さんへのインタビューから、その魅力を探ってみましょう。
 

 

 

 

 

 

クリエイティブカンパニーを経営しつつ長年文学を愛してきた草なぎさん。BUNDANをプロデュースするにあたって、どのような気持ちでいたのでしょうか。

「最初、たまたまご縁があって、日本近代文学館からお仕事のご相談が来たんです。ご相談が終わって帰りがけに館内の食堂が閉じているのに気づきました。「来館者数も少なく、閉店してしまい、職員は食事する場所もなく困っています」とおっしゃっていたので、「では、僕がやりますよ」と即答しました。というのも僕は21歳からずっと文学が好きだった。いつか自分が文学に対して何かで関わりたい、自分を文学が支えてくれた恩返しをしたいという気持ちを持っていたのです」

 

草なぎ洋平さん

 

 

カフェ内の本棚を実際に見てみると、新書、マンガ、雑誌、私小説、エンタメ…ジャンルを横断して、ありとあらゆる本が集まっています。これらの本は、元々すべて草なぎさん個人の私物。部屋1つ分の本を丸々持ってきたそう。どうして、ここまで多ジャンルの本をおいているのでしょうか?
「文字で評するものを文学といいますが、文学の意味するものは非常に曖昧で抽象的です。『文学とは何か?』と尋ねると、なかなか答えられるものではない。僕は物語があるもの、言葉やセリフが人々に感動を与えるものを文学だと思っているのですが、そうすると、僕自身が感動したり、長年集めて読んできた本はまさに僕の『文学』なのではないでしょうか。現在は、かつて文学が意味したものと異なり、非常に多様化しています。だからこそアニメもマンガも映画も一つの文学作品として見る視点も大切だと思います。」

 

増殖を続ける本棚

 

 

ちなみに、この本棚は今も「増殖」し続けています。草なぎさんが、自分が読み終わった本をどんどん本棚に加えているからです。インタビューの前日にも、読み終わったマンガを1冊本棚に加えたとのこと。訪れるたびに、新しい発見があるというのが嬉しいですね。

 

また、料理研究家の寺脇加恵さんの監修のもと「向田邦子のビーフストロガノフ」、「宇野千代のそぼろカレー」など文学にちなんだメニューが数多く用意されています。そこには、どのようなこだわりが?

「メニューはすべてに文学作品が絡むように設定しました。たとえば飲み屋で普通にビール飲めば、それはただのビールですが、そのビールが『夏目漱石の作品に出てきた』という話を知れば、ビールの味がおのずと異なってくるはずです。活字になっているからこそ、何百年前の人たちや故人と感覚を共有したり、歴史と一体になることができる。そこが文学の感動する一つの要素だと思うんです。そこをメニューの中で表現したかった。また読んで、ちょっと勉強になったり、面白い、と思うのがステキだと思います。『いいな』と思うと、しゃべりたくなるじゃないですか。僕、人はみんな、基本的にいくつになっても勉強したい気持ちがあると思っているんです。レストランにきて、メニューを見て、文学を少し勉強できるというのは、なかなかないコンセプトだと考えています」

 

カウンターの様子

 

そんなBUNDANでは、文房具などの物販スペースもあります。やはり近代作家といえばペンと原稿用紙というイメージもありますが、民芸陶器や家具など、さまざまなものが置かれています。

「カウンターに置いてる『早川式繰出鉛筆』は家電で有名なシャープの創業者が会社創設時に作ったシャープペンシルの復刻版です。これで詩やメモを書いていたのが宮沢賢治です。知ると、欲しくなりますよね(笑)。詩人気分になる、そういう気分が大事だと思うんです。偉大な作家にちょっとでも自分が近づける。同じものを共有できる。そうすると豊か、じゃないですか?」

 

 

魅力的な物販コーナー

 

つまり、BUNDANには、草なぎさんの考えるありとあらゆる文学が詰まっているということです。

そんなBUNDANのこれからについて、聞いてみました。

「みなさんに句会や評論、朗読会など、文学に関わるイベントをぜひやって欲しいです。おしゃれなブックカフェは世にはたくさんありますが、意外と文学に特化したストイックな場所はないですよね。そういう部分ではすごくいい場所だな、と思っています。また文学というとなんだか難しいと思われがちですが、人の心を豊かにしてくれるとても素晴らしいものです。BUNDANに訪れ、日本近代文学館を知ってもらうことで、もっと文学について考えて欲しいですね」

 

BUNDANの内装

 

 

おしゃれなスポットとして注目を集めるBUNDANですが、草なぎさんの「文学」にどっぷりハマるつもりでいくのも、楽しみの1つ。足を踏み込めば、あなたの文学観がきっと変わるはず。これからの文学を考えるための発信地となるBUNDANと日本近代文学館の今後の活動をお見逃しなく!

 

 

 

 

(写真:宮石悠平)

writer profile

金七 恵 (きんしち めぐみ)
1992年生まれ 後楽園⇔神楽坂他 ドリフターズ・マガジン編集長