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リレー式インタビュー 成果リレー vol2 大野友資さん

「成果リレー」は、今後さらに注目の集まることが予想されるデザイナーさん(ここで取り上げる方のお仕事の分野はグラフィック、ファッション、空間、プロダクトなど幅広いジャンルを対象にします)にこれまでの仕事、作品について話を聞いていく連載です。 リレーという言葉が表すとおり、毎回、次にインタビューする方をご紹介いただきます。 第2回目は、グラフィックデザイナーの岡本健さんからご紹介いただいた建築家の大野友資さんへインタビュー。おふたりは共通の友人を通して知り合って意気投合し、前回の記事でもご紹介した「ことばのおもみ」を協働されています。 (http://drifters-intl.org/magazine/special/2645) 「物事の裏側にあるしくみが気になる性格なんです」と自らのことを話す大野さん。岡本健さんとドリフターズ・インターナショナル理事でグラフィックデザイナーの宮村ヤスヲとお話を伺いました。(取材:田中美佳)
 


――大野さんは現在所属されている建築デザイン事務所ノイズでの設計活動以外にも多岐に渡る活動をされていますよね。

働くまでに色々経験したことが影響していると思うのですが、ノイズに入られる前はどういった活動をされてきましたか?


大野
:大学で建築を専攻し、修士の大学院では意匠設計の研究室に入って、1年ぐらいは研究室の活動をしていました。大学院の1年が終わったぐらいでポルトガルのリスボンにあるカヒーリョ・ダ・グラサという建築家のアトリエに飛び込みでポートフォリオを持っていって、働かせてくれないかと相談し、そこで1年ぐらいインターンとして設計実務をしていました。

 

宮村:ポルトガル建築の特徴と惹かれたポイントは何だったんですか?
 

大野:僕が好きなポルトガルの建築は白くて幾何学的で、一見するとモダニズムのお手本のように見えるのだけれど、周りの風景にちゃんと馴染んでいるんです。一番惹かれたのはそこで、ずっと気になっていました。新しい建築をつくると、どうしても周りの文脈からは浮いてくるものです。でもポルトガルの建築家は街並みのスケールや記号的な要素をよく観察してそれに馴染ませるのが上手く、土地からの連続性を感じます。ポルトガルの建築は、新しいものと伝統的なものとのあいだで揺らいでいます。当時は言葉にできない違和感で、これは何なんだろうと気になってしまい、現地までいって色々と調べていくうちに辿り着きました。

 

――働く中で感じた日本とポルトガルの違いは?

 

 大野:個人的な感想ですが、なんでも知ろうと思えば知ることができて、ともすれば情報過多に陥りやすい日本に対して、ポルトガルでは良くも悪くも情報がそれほどスピーディーに入ってこないので、誰があれをやった、これをやったという情報に影響されることなくゆとりをもって仕事ができているように感じました。そういう意味では、メディアの差は大きいと思います。

 


――ノイズに入られた経緯を教えていただけますか?

 

大野:ノイズの代表の豊田啓介が大学の先輩なのですが、その縁で最初はアルバイトとして入りました。その後ポルトガルでの経験を終えて日本に帰国した時に、正式にメンバーとして働き始めました。若い事務所だったので熱気みたいなものがあり、立ち上げのタイミングで加速度を感じることができたことは得難い経験だったと思います。ノイズの興味と自分の質が合っていることもあり、楽しく働いています。


――数学・物理が好きということが根底にあると思うんですが、デジタルデザインを建築に取り入れていったのは、ノイズに入ってから勉強されたんですか?

 

大野:ノイズに入ってからです。おっしゃるように数学や物理は好きでした。裏側にある構造を把握するのが好きというところがあります。自分を含め、ノイズにはわりとオタク気質なメンバーが多い気がします。

 

――それでは、大野さんがこれまで手掛けた作品についてご紹介いただけますか?

 

大野:まずはノイズで関った作品について紹介いたします。ノイズでは、原則チームとしてクリエイションを行っています。自分の担当作という言い方は妥当ではないのですが、僕が一からデザインに関わったプロジェクトを幾つか紹介します。

まずは台湾の南投にある産業科学系の研究施設です。台湾の九典設計事務所との協働で、外装やランドスケープといった目に触れる部分をノイズが担当しました。今まさに工事中の案件です。ルーバーが鱗みたいにいっぱい付いていて、それが地層のようにうねっています。建物のまわりをずっと覆っていて、光をあまり通したくないところはルーバーの密度を高くしたり、逆に明るくしたいところは低くしたりしています。専用のシミュレーションツールを作って、全てのルーバーの傾きを一つ一つ制御しながら内部環境をコントロールするようにデザインしています。

 

ITRI リサーチ・コンプレックス(2014.南投.九典設計事務所と協働)
写真提供:ノイズ

ITRI リサーチ・コンプレックス(2014.南投.九典設計事務所と協働)
写真提供:ノイズ

次は、台北の大学の中にある建物を美術館にリノベーションしたプロジェクトです。オープン以降展示計画も度々やらせてもらっているのですが、オープン直前のプレオープニング展もノイズが計画しました。 

日本統治時代の台湾の芸術家たちがテーマの展示で、彼らの自画像や作品が展示されました。美術館内にアトリウムがあって、最初に来館者が必ず通る場所なので、そこを大きな展覧会のマップにしようと考えました。縦軸が人物、横軸が年号の表を床に転写して、その上に布にプリントアウトした作品のサムネイルを吊るすことで、空間的に体験できるインフォグラフィックス…(注1)を作りました。この年にこの人は多作だったとかの情報を、体で感じることができます。結構好評だったみたいで、子供がうろうろしたりして楽しんでくれたようです。

すごく簡易的ですがアトリウムと同じ空間を見ることができるウェブアプリも一緒に開発しました。まるで自分がモニターの中に入っているかのような感覚を体験することができます。

 

(注1)…インフォグラフィクスとはインフォメーションとグラフィックスをかけあわせた造語。情報を視覚的にわかりやすく表現したグラフィックデザイン。

 

北師美術館/序曲展(2012.台北)
写真提供:ノイズ

北師美術館/序曲展(2012.台北)
写真提供:ノイズ


これは同じ美術館のロビーです。直径4mmのスチールロッドを点溶接してワイヤーフレームにすることで、物質感のない家具をデザインしました。この空間にいると、まるでモニターの中に入ったような感覚にとらわれます。普通に設計図を出しても作ってもらえず、鉄工所の人たちにまず3DCADの使い方を教えるところから始めました。今は彼らはなくてはならないパートナーですね。

  

――どうしてワイヤーフレームをつくろうとなったのですか?

 

大野:美術館としてのキャラクターを建物に持たせるために、置いてある家具自体もアートとして感じられるようにしました。一見使いづらそうですがちゃんと機能的で、椅子などは結構座り心地がいいんです。


ワイヤーフレーム・ファニチャー(2011.台北)
写真提供:ノイズ

ワイヤーフレーム・ファニチャー(2011.台北)
写真提供:ノイズ
© kyle yu

 

今度は個人としての作品を紹介いたします。これは、レーザーカッターやカッティングプロッターを使った結婚式のペーパーアイテムです。文字には情報だけじゃなくて、文字自体が持っている質感や手触りがあって、それを感じられるものをつくってみようと思いました。デジタルファブリケーションを使えば、どれだけ色んな人の名前があってもカットする労力は同じで、バリエーションがいっぱいあるものに適しています。70-80人違う名前でもデータを送れば、カットされて出てきます。

 

岡本:とはいえ、データをつくるのは大変ですよね?

  

大野:そうなんですよ。文字を立てるために文字の部分が繋がっていて、どこを繋ぐか、どれくらいの細さの線で繋ぐかが大事になっています。例えば、「一」という漢字は一本の線なので、「一」を立てるために線が一本増えたら全然違う字になってしまいます。だから敢えて「一」の線を太くして、立てるための線は細くして、バランスをとっています。こんな感じで一文字ずつ考えましたね。3DCAD内で簡易的なツールをつくって、構造計算をした文字もありました。


――1番苦労した文字は?

 

大野:「子」とか「三」とかですね。ひらがなも結構難しくて、「い」も大変でした。笑

 

ペーパーアイテムシリーズ(2010)
写真提供:大野友資

次は、渋谷にあるFabCafeというカフェのオフィシャルグッズとしてデザインしたWall Peckerです。これもレーザーカッターでつくっていて、組み立てるとキツツキになります。意外と簡単に組み立てることができます。これはデータも提供していて、データを買ってくれた人が好きな紙、例えばお気に入りの写真や雑誌の表紙、ショップの紙袋などを持ってきて、その場でレーザーカットしてオリジナルのキツツキを作ることができます。カットされた紙を売っているというより、情報を売っているのに近いですね。デザインそのものだけというよりシステムをつくるといったデザインから波及して応用してもらえるものが自分の中で大事ですね。


Wallpecker(2012)
写真提供:大野友資

Wallpecker(2012)
写真提供:大野友資

 

これは360°Bookというシリーズです。一冊の本をぐるっと開くと中に空間が生まれます。一枚ずつデザインをしているのではなく、まず3Dソフトウェアで物語の立体をモデリングし、それを放射状にスライスして1枚ごとのデータにしてレーザーカットし、特別な手法で製本しています。1枚1枚は二次元なんですが、目が保管して三次元として見えるところが面白いなと思っています。この作品も、新しい本のシステムを提案しているので、物語はどんどん増やしていけます。360°BOOKのシリーズは現在11種類あります。そのうちの3シリーズはFabCafeのブランドブックとして制作し、今年のカンヌライオンズなど幾つかの賞をいただきました。

ビデオ https://www.youtube.com/watch?v=V-aEKJgPAr8

 

360°Bookシリーズ(2012~)
写真提供:大野友資

また、同じ仕組みでデザインした照明がロサンゼルスのartecnica社から発売されています。

一冊つくるのが大変なので量産は難しいですね。大きさは10cm×10cmでA4の紙に4枚収まるようにしています。全シリーズ40ページなんです。40ページ以上だと外から絵が見づらくて、以下だとスカスカ感がでてしまいます。色々なページ数のものをつくって試し、見え方の検討は主にモニターの中でやっていました。


360°Bookシリーズ(2012~)
写真提供:大野友資


――工夫した点、苦労した点は?

 

大野:立体にしたときの配置の仕方といったバランスですね。二次元で書いたものを三次元にして、密度によって新しく足したり、引いたりして何度も何度も確認しました。一発で頭の中にあるものができたのではなく、二次元と三次元の間を行ったり来たり、何往復もしました。模型をつくってどこに人や家具を配置するかという感じでデザインしています。次元を行き来するのは楽しい作業でした。CADの中で確認できるからこそ、何回も反復することができますね。人間の苦手なことを任せることで、よりプロポーションや構成に時間を割いて検討することができるんです。

 

岡本:普段扱っている紙がこうやって分野を超えてジャンプしているのをみるとざわつきますね。ドキドキします。嬉しくもあり、怖くもあります。


 

大野:最後は岡本さんと協働した「ことばのおもみ」です。作品については岡本さんが前回紹介されていましたので、僕は制作過程でのこぼれ話について少しご紹介します。

「ことばのおもみ」ではフォントの面積を重さとして換算しているのですが、それぞれの文字の重さが同じになるように調整したらどうなるか、実験したりもしました。

例えば、文字に高さを与えて、体積で調整するとこのようになりますし、線のウェイトで調整するとこのようになります。文字を定量的に考えてみたいというアイデアは昔からあったのですが、それをグラフィックデザイナーの岡本さんとの協働という形で色々試すことができてよかったです。

 

ことばのおもみ(2013)
写真提供:大野友資

ことばのおもみ(2013)
写真提供:大野友資


――大野さんの作品は、幅がありますよね。大野さんは様々な活動をされており、そこからもインスピレーションを受けているからでしょうか。例えば、作品づくり以外に「RGSS」…(注2)の活動をされていると伺いました。RGSSについて及び、その活動を始めたきっかけについて教えてください。


大野:RGSSは僕が学生時代に研究室で始まった活動で、デジタルデザインの勉強会です。ノイズでもメインで使っているライノセラス…(注3)という3Dソフトと、そのプラグインのグラスホッパー…(注4)というのがあるのですが、最初はその使い方を研究室の先輩で折り紙作家の舘知宏さんと一緒に勉強する会として月1で開いていました。ノイズに入ってからも継続的に開催していたのですが、そのうち海外帰りのデザイナーや日本でライノセラスについて聞ける人がいなくて困っている人が参加するようになって、芋づる式にコミュニティが拡がっていきました。最初は単にソフトの勉強会でしたが、最近ではゲストを招いてプレゼンテーションの場として開催することが多いです。


(注2)…RGSS(Rhino & Grasshopper Study Session)とは大野友資さんと舘知宏さんが主宰し、建築、プロダクト、メディア・アートなど様々な分野からゲストを迎え、コンピュテーショナル・デザインについて日本における最先端の情報を交換し合う勉強会系ワークショップ的イベント。

(注3)…ライノセラス(rhinoceros)とは、現在プロダクトデザインや建築設計などの分野で広く使われている3Dソフト。曲面などを比較的精度よく作ることができる。

(注4)…グラスホッパー(grasshopper)とは、ライノセラスのプラグイン。Photoshopのアクションのように、3Dモデリングに使うコマンドを複数組み合わせて、ひとつの流れとして登録することができるツール。


――ゲストで呼ぶときの基準はありますか?

 

大野:デジタルデザインに関わりのある人をベースにしていますが、僕と舘さんが興味のある人という基準で呼んでいます。

RGSSを通してできた繋がりで、去年藝大の砂山太一さんと一緒にマテリアライジング展というデジタルデザインの展覧会を企画しました。おかげさまで注目していただいて、今年も第2回目を開催いたしました。

マテリアライジング展は情報と物質とその間の展示をするというコンセプトでやりました。例えば僕らがつくる設計図は情報で、建物が物質です。この物質化・情報化のプロセスの部分にスポットを当てて紹介しています。といっても説明的にみせるのではなくて、今まで見たことのないような存在感を提示して、どうやって作ったんだろうって思わせるように心掛けていました。

 

岡本:作り手の痕跡がないって究極だと自然物になりますよね。こわいぐらいの美しさはひきこまれます。どうやってつくったのかわからせないものは強いんだなと感じます。


 

――デザインする上で大切にしていることは何ですか?


大野:二つあるのですが、一つはとりあえず無理だと思わずにやってみるようにしています。無理だと思うような課題を振られても、なるべく即答できるようにしています。考えてなかったことでも、その場でとにかく何かを絞り出して、後から辻褄を合わせることもあります。(笑)もう一つは、できるだけいろんな人と関わるようにしています。岡本さんとご一緒した時もそうでしたが、話をしていると結構似たようなことを考えてデザインしていたりして、共通言語のようなものがあるように感じます。その共通言語をできるだけ具体的にすることで、こういうことができるのでは?という提案をしてコラボレーションしたいと思っています。そしてもちろん、共通することよりも違うことの方が多くて刺激になることも大きいです。誰かとコラボレーションをすると自分たちが全く考えつかなかったことができるので、内に閉じこもるより常に誰かと絡んでいきたいですね。

 

――普段生活する中でアイデアソースにしているモノ・コトは?


大野:あまり意識していませんが、身近なもの、例えば雨や風といった現象からヒントをもらうこともあります。直接のソースではありませんが、どうしてこういうことが起きるのかな、ということを考えたり調べたりする行為自体が、僕がデザインしている時に近い気がします。

ものを買う時なんかも、デザインの背後にある作り手の意図を汲み取りたくなります。すごく機能的で考えられているからいいというわけではなく、なぜこうしたのかさっぱりわからないような、自分の推測からこぼれてしまうようなものに魅力を感じることも多々あります。ただ意図をトレースしやすいかどうかが、自分の中で1つのパラメーターとしてある感じです。基本的にオタクなんですよね。なんか原因が知りたいと思っていますね。ポルトガルに行くきっかけになった建築も、何故こういう見え方するのか、何故こういう雰囲気になっているのかといった理由を知りたいという探究心からです。

 

岡本:ポルトガルではメディアを能動的でないと情報がとれないという話がありましたが、現在は仕事や子育てをしながらどういうバランスで情報を得ているのですか?

 

大野:最近だとネットが多いですが、街中を歩いている時なんかにも色々情報収集しているかもしれません。やったことないデザインがでてきたときに、町中で同じようなところをみるとすごく考えられているものから考えていないものまでたくさんあって、今まで見えていなかった世界がひとつ増える感覚です。階段を設計するときに手すりはどこにどうやってつけるのかわからなければ、実際に街へでて観察すればいいのです。視界がひろがる瞬間がたくさんがありますね。
子供の頃から時々やっている遊びがあるのですが、今日は通学(通勤)路で黄色いものだけみよう、など注目する色を決めて歩くんです。いつも歩いていてよく知っている道だけでも相当面白くなります。今まで知らなかったものが見えてきます。


――今後、チャレンジしたいお仕事はありますか?
 


大野
:建築はずっと自分のベースとして続けていきますが、これまで蓄積してきた技術的なノウハウを活かして、建築以外のアウトプットにも色々と挑戦したいです。また、自分の作品だけではなく、自分の技術や発想を通じて様々なクリエイターの人とコラボレーションをしていけたらいいなと思っています。

 

 

 

 

 

大野友資

1983年ドイツ生まれ。2009年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。

建築家・デザイナー・エンジニア。ノイズアーキテクツメンバー/東京芸術大学藝術情報センター(AMC)非常勤講師。

建築、インテリア、ランドスケープからプロダクト、グラフィックまで幅広いデザインを手がける。設計実務において、コンピュテーショナル・デザインを実践的に使ったプロジェクトを進めている。

カンヌ・ライオンズ、D&AD、NYADCなど受賞多数。


 

 

writer profile

田中美佳 (たなか みか)
1989年生まれ。大阪府出身。