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編集長の読書日記 其の四

田んぼそれ自体や、田んぼのある風景を見るのが大好きです。そのため、この季節は電車の中での読書がまったくはかどりません。山も海も川もない、ましてや高い建物もほとんど無い田畑地域に生まれ育った私にとって、田んぼは、世界をガラリと変えてくれる素晴らしい装置です。
 

 

 

 

 

 

 

2013/05/01~2013/05/12

 

私は、寝ることが好きだし、寝る前の時間が1番幸せだ。

(反対に、朝起きるのは苦手だ。布団の中で20分ほどグズグズしてしまう)

そのため、安眠のために結構気を遣う。

 

特に「寝る前に電子機器を触ることは、安眠を妨害する」という説は信じている。

確かに、寝る直前までパソコンやスマートフォンに触れていると、頭の中がチカチカしてしまい、脳内を上手く消灯できない気がするからだ。

 

寝る前は、必ず本を読む。

 

しかし、この時に読む本も、推理小説やSFではダメなのだ。続きが気になって、読み終わるまで眠れない。

では、反対に短いショートショートがいいのかというと、このジャンルはユーモアや皮肉、どんでん返しが作者の腕の見せどころなわけで、ストーリーに引き込まれて、感情の起伏が大きくなってしまう。むしろ覚醒作用があるように感じる。同様の理由で、マンガもダメ。純文学は、寝るとどこまで読んだのかわからなくなってしまい、後々混乱するので避けたい。

 

では、どういった本が健やかな眠りに私を誘ってくれるのか?

 

そのことについて考えていた。今回は趣向を変えて、結果報告します。

 

 

『うたの動物記』(小池光著、日本経済新聞出版社)

俳句や詩、短歌に出てくる動物たちについてのエッセイと、その動物を取り入れた短歌の紹介。獏、キリンなどから、果てには蚊まで詠まれているだなんて。

見開き1ページで1つの動物を取り上げているため、1日に3~4の動物をちびちびと読み進めていく。

作者のユーモアも面白いような面白くないような絶妙なラインなので、始終、穏やかな気持ちでいられるのが良い。

 

『暮しの手帖』(暮しの手帖社)

特に、「すてきなあなたに」や「暮しのヒント集」「家庭学校」などの短いコラムや投稿欄がおすすめ。役に立ち、心に残る言葉を寝る前に読むと、記憶に深く残り、翌日からの生活に潤いが増す(気がする)

 

『冬の本』(夏葉社)

これも『うたの動物誌』同様、見開き1ページで1話完結のエッセイ集。

84人の冬と冬から思い出される・連想される本の記憶について。いろいろな思い出に触れられるのが、面白いし幸せだ。この企画自体、やられた!と思った。

 

『富士日記』(武田百合子著、中央公論社)

山での生活や、食事の内容が淡々と続いていく。止まるようで止まらない日常の繰り返しを読むことは、1日の疲れを取るのに最も適した薬のように思えてくる。

私はとくに、何を食べたかの記録の部分が好きだ。

ちなみに、この作品へのオマージュとして高山なおみさんが小説新潮に『今日もいち日、ぶじ日記』という連載をしているが、こちらも山と都会との往復生活が描かれていて素敵だ。

 

『モンキービジネス 2008 Summer vol.2 眠り号』(ヴィレッジブックス)

『考える人2013年冬号 特集眠りと夢の謎』(新潮社)

この2つは、特別枠。眠ることが好きなため、眠り特集にも目がない。『考える人』の方では、様々な人が「眠りと夢と言えば」の本を紹介している。

私は、『夢十夜』位しか思いつかなかったが、いろんな眠りが古今東西、描かれているのですね。

 

 

こうして挙げてみると、どうやら日常や思い出を取り扱ったささやかな作品、そして、毎晩、読むのを楽しみにできる適度な分量が寝る前には向いているようだ。

どうしたって避けることのできない悩みやモヤモヤを、こうした本で「解毒」してから眠りにつくのだ。

 

 

 

全く関係ないが、書いていて思い出したこと。

やなぎみわさんの作品で、女性たちに将半世紀後の自分の姿をイメージしてもらい、やなぎさんがヴィジュアル化するという「My Grandmothers」シリーズがある。

その中に川端康成の『眠れる美女』に出てくるような少女になりたい、というものがあったな。

writer profile

金七 恵 (きんしち めぐみ)
1992年生まれ 後楽園⇔神楽坂他 ドリフターズ・マガジン編集長