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ドリフターズ・サマースクール2012

ドリフターズ・インターナショナルが2010年から毎夏開校している「ドリフターズ・サマースクール」。 その集大成ともいうべき公演「NO FUTURE / YES FUTURE」が9月末、3日間にわたって横浜みなとみらいの象の鼻テラスにて行われ、各回100名近い観客が公演に訪れた。 一夏の蒸し暑さにも似た、熱く短く密度の濃い約2ヶ月半のクリエーションの模様を、お伝えする。 (ドリフターズ・サマースクール2012WEBサイト→http://drif-summer.info/)
 

 

 

 

 

ドリフターズ・サマースクールは、ダンス、建築・空間美術、ファッション、宣伝・制作という4つのコースにそれぞれ集まった受講生が、全員で1つの作品を作り上げ、実際に公演するまでを実践的に行う。今年集まった受講生は総勢48名。下は18歳の大学1年生から上は20代後半の社会人まで、年齢や職業はもちろんのこと、専門領域や興味・関心もそれぞれ少しずつ異なっている。今年もドリフターズ・サマースクールは、非常に個性的で多様性に富んだ現場となった。

 

4コース合同授業の様子

 

各コースはそれぞれ週1回のペースで行われるワークショップ(以下WS)でのアイディア出しやクリエーションを行う。7月末〜8月上旬にかけては、各コースともWS内で講師から出される宿題をベースに、お互いの考えやアイディアを共有していった。

8月中旬から下旬にかけては、各コース数回のWSを挟みつつ、全コース合同授業が2回行われた。

しかしその様子はといえば、まさにカオス。

セリフや日常動作を多く含んだ演劇のようなダンス、3つの全く異なった舞台空間や客席配置の提案、装置から衣服に変化する衣装、どこか宇宙的な羅針盤のような正方形のチラシ…。中には、ナカダイの工場見学を経て持ち帰った素材を舞台装置や衣装に用いた提案もあった。合同授業ではとにかく各コースから、沢山のアイディアが発表され、そのどれを、どのように作品の中で用いていくのか、選択と統合の必要性が予感された。

 

ファッションコース初期の製作物

 

サマースクールでは、脚本家や演出家、振付家といった作品の主軸を決めるリーダーが定められていない。それゆえに生み出されるジャンルを超えた様々な議論やアイディア、新しい表現の発掘はこのサマースクールの醍醐味でもあるが、その実際はかなりの困難を極めていた。

作品の軸となる「NO FUTURE / YES FUTURE」の解釈についても、様々な議論が交された。

未来はあるのかないのか、

いや、未来「で」あるのかないのか、

どちらにせよその選択に意味があるのではないか。

二者択一とは限らないのではないか…。

各コースの有志が集まり、テーマについての話し合いが行われた。

作品のテーマについて、ここで共有された前提は、「未来を提示することはできないが、「今」の積み重ねや選択が未来へとつながっている」ということ。そして、作品の主軸となるイメージは「現在/今」へと決まった。未来を提示するような作品ではなく、現在/今を問いかけることで未来を志向させるような作品を目指すということになった。

 

クリエーション期間も折り返し地点を過ぎた、9月1日。この日は各界からゲストをお呼びしての試演会が行われた。まだまだ創作途中の中での発表、ゲストの方々からは厳しい意見が飛び交ったが、ここから、受講生は改めて自らの作品を見つめ直すこととなった。そしてここから、各コース間でのやりとりが急速に進んでいくことになる。

 

建築コースによる舞台美術 写真:後藤武浩(ゆかい)

 

9月に入ってからの1ヵ月間は、毎日スタジオに受講生が訪れ、創作や練習、話し合いを進めていた。通し稽古も毎週のように行われ、1つの作品としてコース間が連携をとってクリエーションを進める姿勢が強まった。座っている観客からイスを取る演出や、木枠によって統一された舞台空間、ナカダイの工場から持ち帰った細いLANケーブルで作られた衣装など、印象に残る要素が絞られ、洗練されていったのもこのときだ。さらにコースをまたいで音響班や照明班が結成されたことにより、音響や照明を含む全体の演出についても議論され、構成が進んでいった。

 

公演を4日後に控えた9月24日、実際に公演を行う象の鼻テラスへと小屋入りした一同は、現場での舞台・客席作りと最後の調整へと入った。前日にはダンサーの1人が腰を痛め激しい動きができなくなるというアクシデントが発生。演出の変更を余儀なくされたが、無事本番は迎えることができた。

 

公演の様子 写真:後藤武浩(ゆかい)

 

本番中も作品はみるみる変化していった。

初日のアフタートークで「情報量が多すぎる」という指摘が多く聞かれたかと思えば、2日目の本番までに、いかに作品の中に余白を作りよりよい作品に仕上げられるのか、と話し合いが行われた。

 

そして2日目は、1日目の勢い有り余る表現とはうってかわって、全体に静けさの目立つ舞台となった。ダンサーが「今日は即興大会だった」と言っていたが、互いが予定外の動きや静寂を生み出すことで、作品の中に余白を作ろうとした。

台風による暴風雨に見舞われた千秋楽では、みなとみらいの夜景に吹き荒れた雨風を背景にして、1日目の勢いと2日目の緊張感が調和した、またひと味違う舞台空間が演出された。

 

公演の様子 写真:後藤武浩(ゆかい)

 

作品は完成したのか、それとも未完成のままだったのか、それすらもわからないほどの試行錯誤の末に、今年もドリフターズ・サマースクールは幕を閉じた。

 

毎回のアフタートーク、台風に見舞われた千秋楽の本番の様子は、すべてUstreamでアーカイブされている。百聞は一見にしかず、気になった人はぜひHPと共にその模様もチェックして欲しい。

writer profile

北 麻理子 (きた まりこ)
お茶の水女子大学 舞踊教育学コース 3年
ドリフターズ・サマースクール 第3期 宣伝・制作コース