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ドリフターズ・サマースクール2013 キックオフレクチャー

ついにドリフターズ・サマースクール2013の初日!キックオフレクチャーでは監督講師の篠田千明(演出家)による、タイの伝統芸能ラコン・チャトリーを例に、伝統芸能における型の必要性についてのレクチャー、次にグループに分かれての「詐欺」シナリオ作り、休憩を挟んで、textile×design notesの一員で講師の奥田博伸(株式会社 奥田染工場)がファッションにおけるシルクスクリーンの位置づけについてレクチャーを開講。レクチャーの後には実際に、シルクスクリーン使い方の説明と指導と、そして最後に親睦会が執り行われた。
 

 

 

 

 

【受講生、集合】  14時45分から受付開始。受講生が続々森下スタジオへ到着。

受付をすませた受講生たちは、TA(ティーチングアシスタント)から渡された短冊に夏の抱負を書きます。ここに、すでに受講生たちの個性が発揮されていますね!この短冊は、後ほど、大きな役割を果たします。

 

 

 

 

席につく受講生たち。サマースクール説明会に足を運んでいた受講生がチラホラ。

 

 

 

 

【レクチャー、スタート】

いよいよ15時から篠田千明によるレクチャーがスタート!

 

 

 

 

<タイの伝統芸能 ラコン・チャトリー (Lackhon Chatri)>

篠田さんが住んでいるタイの南部で180年ほど前に発生したラコン・チャトリーという芸能から話をはじめます。ラコン・チャトリーは1日かけておこなわれ、神様に捧げものをあげるという意味のお祭り。お葬式、 結婚式、などで披露されていたそうです。練習は特にしないで、一族が生まれながらそのリズムを聞いて 身に着け、口承芸能としてずっと伝わってきました。ラコン・チャトリーにはゆるい5つのルールがあるものの、 とにかくどこでもできるというのがこの劇の特徴です。

 

 

 

 

演じるときは、マスクではなく頭にヘッドドレスのようなものをかぶります。馬や動物、巨人、バーバリアン(原住民)があります。衣装も共通していて、全部手作りだそう。イメージとしては吉本新喜劇といった感じで、庶民の中に馴染んでいたそうです。しかし、テレビやメディアがでてきて、一般大衆に向けての娯楽というものが変容していったと同時に、すたれていきました。今継承しているのはおばあちゃん1人だけなのです。

ラコン・チャトリーの基本の話はとても簡単で誰でも理解できるのに、今やっても伝わらない何かができてしまっています。そのため、ラコン・チャトリーはすたれてしまっていると篠田さんは考えます。この点から「お話を伝えていくだけだと埋もれていってしまうものはなんなのか」へと話は移ります。

 

 

 

 

<伝統芸能にはなぜ型が必要なのか>

演劇の成り立ちの話から、ドイツの劇作家ハロルド・ピンターの「演劇は、おおがかりで、活気にとんだ公的な活動である」という言葉を拡大解釈して「伝統芸能にはなぜ型が必要なのか、型で残っていくものは何なのか、型では残らないものは何か」についてのレクチャーに。

「まず、「公的」であるということを考えると、日常生活のほとんどが公的の活動としてとらえることができる。次に「おおがかり」。公的な活動は色々あるけど、大がかりなことが加わると多少制限がついてきますね。では、「活気にとんだ」とはどういったものか。そこで、考えたいのは、「公」であり「大がかり」であるラコン・チャトリーはなぜ栄えなくなってしまったのかということ。それは「活気」がないからだと考えています」と篠田さんは続けます。

「「活気」、「他人の物語をいかに、多くに同時にスムーズに承認されるか」というのが大事になってきます。要は、ラコン・チャトリーの伝統芸能としての型の文脈、言語が今のタイでは通用しなくなってしまっているんです。活気をもっていた伝統芸能が、同時にスムーズに承認できなくなってしまった途端に、芸としては見るものはあるけど、演劇としての機能を失ってしまったんですね」

こうした点を素材に、次に、作品作りを実践することになりました。

 

 

<講師陣、受講生A、B、Cという4チームに分かれてグループワーク>

「伝統芸能のもっている様々な型は、物語を語るうえで必要な「もうひとつの言語」として観客に機能していると考えています。それゆえ型にする必要があり、記号化につながります。記号は嘘ともいえると思います。嘘が承認されてはじめて型ができます。

その1番わかりやすいものが、台本です。演劇を見にくる人の前提条件から、いかに他人の物語を承認するかというすごく局地的なグループが生まれて、そのグループのなかで嘘をつくための記号が生まれて、その記号をいかに承認していくのかが台本だと考えています。この原理と、詐欺の原理が全く一緒だったんですね。詐欺にも台本、シナリオが必要です。詐欺の前提条件は、電話番号リストと個人情報を入手すること。次に、詐欺のネタとそのマニュアルを用意します。最終的に、それが嘘だったと分かる所まできたら詐欺が完結したと見なされます。劇と同じです。

では実際に、仮にある個人情報リストを入手したとして、みんなで詐欺のシナリオを考えてみましょう!」

 

 

提示された情報は、以下のとおりでした。

目標詐欺金額 200万!(バイトで払えない額)

被害者の家族構成

大学生のドリフ・マリオ(21歳 一浪 就職活動中 高田馬場住み 趣味はインターネットショッピング)とその両親(父:ドリフ・マスター、母:ドリフ・マルコ)

 

 

 

 

 

 

受講生グループA、B、Cと講師陣グループの計4グループが構成され、作業に入りました。提示された被害者家族をどうだますのか、シナリオの案を出しあう受講たち。このグループワークを通し、初めて受講生たち同士が口をきき交流を図りました。受講生の大半は学生で、お題に使われたマルオとは同年代であり、アイデアがどんどん出てきます。短時間でシナリオが出来上がっていきました。

 

 

 

 

受講生がそれぞれのプランを発表した後、講師グループが考案した母親のマルコがターゲットの詐欺のシナリオを、講師たち自ら実際にシュミレーション!ハゲに悩むマルオや、育毛商品を開発している会社の従業員を装い、遺伝子レベルで育毛手術をうけるための200万を詐欺する、名付けて「育毛親子プラン詐欺」。講師たちの熱演により、受講生たちからは笑いが起こりました。グループワークで緊張がほぐれてきた受講生たちは、この後の休憩の間、お互いに会話が弾んでいました。

 

 

<シルクスクリーンのレクチャー>

続いてtextile×design notesの奥田博伸によるシルクスクリーン、プリントについてのレクチャー。これまでのサマースクールとは違い、コース分けがなされていない今年はファッション関係からの受講生が少ないため、基礎から丁寧にレクチャーが行われました。普段なじみのない分野のレクチャーに、受講生たちは耳を傾けていました。

 

 

 

 

「ファッションを作るとは」という所からレクチャーがスタート。布をつくる方法、染める方法の種類は多岐に渡り、それぞれの技術が非常に深い領域をもっています。そのため多くの人が関わらないとファッションの服は出来上がってこないということ、今回のサマースクールでは、「染め」をピックアップして、シルクスクリーンプリントを軸に、「布を作り表現する」ということを教えていく、と話は進みます。

 

「意識してものを見るということに焦点を当ててほしいです。当たり前に過ごして見ている世界が当たり前でないことにまず気づけると、そもそも色とは何なのか、それが人に与えている影響は何なのか、素人ではなくプロの視点で、色がどんな影響を人に与えるのかという側面で見るきっかけになります」と奥田さんは語っていました。

 

 

<シルクスクリーン機械を使ってDSS2013オリジナルTシャツを作ろう!>

 

 

 

 

奥田さんから使用方法を教わろうと集まる受講生たち。奥田さんのレクチャー後、受付の際に受講生と講師陣に書いてもらったメッセージを、講師の近藤さんがデザインし、リアルタイムで製版し、Tシャツにシルクスクリーンを施すレクチャーが行われました。この機械は森下スタジオに常備設置されたため、受講生はやり方を覚えればいつでも自由に利用することができます。

 

 

 

 

受講生たちのメッセージがデザインされています!

 

 

 

 

写真の機械は露光機です。デザイン画を特殊なプリンターでフィルム印刷し、そのフィルムを貼ったPSスクリーンを中に入れます。

普通は、光をあてると固まる性質をもつ感光乳剤を塗り、版を作るところから始めますが、サマースクールでは既に感光材が塗ってある完成された版、PSスクリーンを使います。

枠を扱う際は電気を消し、3分間待ちます。その後、枠を露光機から取り外します。

 

 

 

 

露光機から取り外した枠を、10分間水につけます。

 

 

 

 

枠についている感光材を洗い流します。

 

 

 

 

デザイン画通りの版が完成!

 

 

 

 

刷りの作業に移ります。

 

 

 

 

Tシャツに効率よく順々にプリントしていく流れ作業。1日ドリフTシャツ工場の誕生!?

 

 

 

 

欠席している講師や受講生たちの分もみんなでプリントして…完成です!

これにて予定されていたスケジュール全てが終わり、長い1日が終了!

 

 

 

 

ひと段落したあと親睦会が行われ、これから2か月間を共に過ごす受講生と講師らが宅配ピザとビールを片手に交流をはかりました。

~キックオフの締めくくりで行われた親睦会で、今年の受講生たちにドリフターズ・サマースクールですごす2か月の意気込みを取材しました!~

 <波野平遥さん>

「全然先がみえてないけれどそれが楽しみ。楽しみながら何か形になればいいと思っている。レクチャーの回を重ねるごとに形になってきたらいいなと思っています。」

<宮崎里美さん>

「やばい夏にしたい!と思ってきました。普段ファッションをやっているので、自分の価値観を壊し飛び越えて作りたいです。」

<原拓也さん>

「大学生活の締めくくりとして参加しました。今まで経験したことをこの夏につめこみたい。ここドリフのサマースクールできた今後につなげたいです。」

 

 

 

 

「なんだかよくわからない?!」「これからなにがおこるの?」

不安と期待が入り混じりながら、キックオフレクチャーにて初めて見る顔に囲まれ、慣れない場所に集った受講生たち。

これからここに集っている人たちが2カ月間のサマースクールを通して仲間へと変わり、この場所がひと夏をすごした思い出の場所へと変化していきます。

サマースクールは始まったばかり!何が起こるかわからない、何が起きてもおかしくない2か月が受講生たちを待ち迎えています。わくわくと期待に溢れるこのドリフターズ・サマースクール2013で、受講生たちが何を見て、何を体験し、何を身につけるのでしょうか。今後ドリマガでは、サマースクールのレクチャー、最終公演の取材を行う予定です。乞うご期待!

 

 

writer profile

樫村有紀 (かしむら ゆき)

1993年生まれ 上智大学在学中