ドリフターズ・サマースクール2013プレ・レクチャー 第2回(前半)
金森:今日は、ドリフターズ・サマースクールのプレレクチャーになります。ご登壇の皆様のご紹介です。spoken words projectの飛田正浩さん、振付家・ダンサーの山田うんさん、奥田染工場 代表の奥田博伸さんです。
<過去のドリフターズ・サマースクールの様子>
金森:まず、うんさんから話を聞きます。
ドリフターズ・サマースクールは今回で4回目なんですが、2回目の時のダンスコースの講師がうんさんでした。毎年、講師や受講生の個性で、スクール自体や、作品がどうなるか全く異なるので、今年はどうなるかは、まだ全然読めないんですけど、2年目はどんな感じだったか、そしてダンサーのうんさんが、どのように若い人々と作品作りをしていったのか、お聞きしたいです。
山田:終始、大勢の生徒がひとつのスタジオに集まって賑やかにやっていました。その中で、私は、生徒をほぼ放置していましたね。
共同制作をするっていうことは、まず、人間関係から始まるんです。
誰かが誰かを支配しやすくなる関係性ができたり、言葉が強い人が主導権を握りやすくなったり、おもしろいアイデアなんだけど最後まで形にならないまま残っているものとか、そういうことがある中で私が簡単にまとめることもできたんだけど、最後まで皆に悩んでもらいたいっていうのが私の進め方でした。
最終的に、本番は即興になりました。だけど、ストラクチャーはあって、どういうふうに進んで、どう終わるかということは決まっていますし、音楽やファッションや建築美術との関係性は、言葉ではすごいキープしていたんですが、とてもフィジカルなもので、フィックスしないものは残りました。
公演は何度かあったんですが、初回は緊張感がすごいあるんだけど2回目は慣れてきて、それまでの記憶が障壁になったり、サポートになったり、体の中で記憶が入替っていくような環境でした。
金森:普段はワークショップや、ダンサーを志している人とか、ある程度プロの人とやることはあっても、サマースクールではダンスをあまりやったことのない人の身体と向き合うこともあったと思うんですが、ご自身でやってみて何か違いなどあったんでしょうか。
山田:この2~3年、学校教育の中でのダンスが多くて、ワークショップをやることがほぼ毎日のようにあるんですね。だから技術が無い人とダンスをやるのは珍しいことではありませんでした。
だけど、サマースクールの場合は、動ける人と動けない人が混ざっているんですね、その時に「技術は何をサポートするのか」ということを皆考えて、価値観がお互いずれていくんです。経験のある人と無い人がカチっと上手く行くようになるのに時間がかかりました。
そういう風に、いろんな人が混ざってサラダのように味をつくっていくのは、私には刺激的でした。ダンサーが身体言語だけではなく、モノを作っていくときの空気や、時間の運び方とか、新しい言語をつくる様はすごくおもしろかったです。
<瞬間の表現>
金森:今日のトークは「瞬間の表現」がテーマですね。ダンスは、その場で消えていく表現という風に思っています。何かその点については、感じていることはありますか。
山田:お洋服とか、ずっとプリントされているものは私にとって魅力的です。
私の表現の場合、「パッ」とその場で無くなってしまうので、生まれるものと消えていくものが同時にあるんですね。ファッションは作ったものを、キープできるのがすごく巨大な力になると思っています。
金森:少し飛田さんにもご意見をくださいますか。
飛田:僕は、ちょうど、狭間にいるんですね。
僕、そもそもロックミュージシャンになりたかったんです。それで、4浪して入った美大で4年間バンドやっていて、ろくに学校に行かず、毎年留年の危機で4年間音楽づけ。(毎年留年しそうでしたが、実際はギリギリで留年はしていません。)それで、大学出て1人ぼっちになった時、何をやろうかとなって、服に出会ったんです。
あとで映像を見てもらうんだけど、最近、目の前で洋服をつくるパフォーマンスをやったんです。なぜかというと、継続しようとしすぎている自分がいて、それが嫌になったんです。段取りと予定とか、生活していくということを考えると「瞬間」を重視して生きていると死んじゃうんです。だけど、「瞬間」か、その反対の「継続」のどっちかだけ選ぶと、多分我慢できなくなっちゃう。
なんでそんな作り方をしているのかと言うと、瞬間を見たいんです。あとは壊したい。瞬間において出来ること。安定を目指しているものを壊したときに出来ること。
金森:普段、どういう作り方をしてらっしゃるんですか?詳しく教えてください。
飛田:ファッションデザイナーの多くと僕らは、そんなに違いはないんだけど、違うとするなら、商品をお客さんに見せる時はアトリエで必ず手作業を入れて出します。だから縫い上がったものを壊したこともあるし、壊すことを予期して作ってもらうこともあるし、未完成のものを作ってもらうこともある。普通のブランドさんと比べると、普通の段取りを途中でバーンとやってしまうことをやっているし、やっていきたいです。
金森: 飛田さんの身体性が、商品の中に残り、それが見えてくる感じでしょうか?
飛田:そうね、人によっては不快に思うかもしれないけど、僕自身のリアリティというか、そういうことをしたいですね。あとは、絵画がすきで、絵画的に洋服を作っているというのもあるかな。
金森:さっきお話のあった映像をちょっと見てみましょうか。
<飛田さんの作品について>
飛田:はい。この映像(spoken words project 2013-14A/W collection『東京の積雪』)は、1ヶ月前くらいの出来事です。実際に、1人に5分かかる計算で、6人いて、30分ということで計算していたのですが、結局、ハプニングもあって45分かかりました。
金森:ある程度、頭の中に構想はあったのでしょうけど、その場でインスピレーションがあって作ったりしたんですか?
飛田:現場に持っていける荷物や洋服とかも限られているし、ざっくりとした構想はあったんだけど、本当に真っ白、どうしようっと追い込んでいってやりました。
これをやる前、結構悩んでいたんです。継続と瞬間、果たしてどっちが重要なんだろうとか、自分の作る洋服に勢いがないんじゃないかとか。僕のアトリエは、僕と優秀なアシスタントの2人しかいないから煮詰まるとよけい煮詰まっていっちゃう。作風にも悩んでいたし。
それで、とにかく窮地に追い込んでやろうと思ったんです。人に見てもらって、とにかく失敗してもいいから、やっている瞬間を見せることで服が新しいものになるんじゃないかと思ったんですね。
実際やって、すごく楽しかったし、勉強にもなりました。ちょっとバンドマンをやっていたころの感覚かもしれないけど、いきなりステージに上げられてギターを渡されたりするのと似ていたかもしれません。
「瞬間と継続」でいうと、これでは瞬間をやったことになるんです。瞬間をやった後に、継続が始まるんですね。
金森: この服は1点ものなんですか?それともその後量産するんですか?
飛田:ほとんどものは1点ものです。ですが、本当に同じものにはならないですけど、このうち2柄は量産します。
同じものがならないというのも悩みだったんです。僕、10数年、洋服屋さんやっていて、「瞬間」ということをやるから同じものを作れないんです。
今、インターネットで洋服を買われる方多いじゃないですか。そうなると、僕の作った物をネットに載せると、実際に届くものと色の配置が違ったりしちゃうんですね。だからネットビジネスには向かないですよ。
だけど、今までそれで返品は無いんです。
同じものを作れないから、ユナイッテッドアローズでは売れないんだろうなって悩んでいたんだけど、結局同じものじゃないことがいいことなんだって言ってくれる人がいたんです。だから、同じものを作る努力をするよりも、瞬間に頭の中にあがってくる物を作って、あとは責任を取ろうというスタンスを認めてもらえるようになってから、出来てきました。
金森:その飛田さんのアクションみたいのが、商品の中に息づいているというか・・・確かに「違う柄じゃん」というのはありえないですね。世間一般のお洋服とは違うかもしれないけど。
ちなみに、このパフォーマンス中、見られているというのはどうだったんでしょうか。
飛田:そこまでしないとダメだなと思ったんですね。最初に構想にあったのは、僕が見られる見られない関係なく、瞬間に洋服が出来ていくのにしようと思ったんだけど、そういうある意味のエンタメに仕上げるのに、MCやミュージシャンがいるとかという案もあったけど、俺が出て、俺がマイクを付けるのが、一番伝わるんだよなって思ったんです。
金森:なんか音声が聞こえたのは、飛田さんの声なの?
飛田:そうそう。音楽はTBSラジオでした。TBSラジオの音楽がナイターになっちゃったりして・・・。そういうリアル感って結構好きなんです。
あとは、現代美術とか好きです。作品とゴミの間、違いというもの、例えば、ガラスケースに入ったウンコがあったとする。それが何千万で売れたり、ゴミを拾ってきて何かを作るというマジックに興味があるんですね。綺麗な服を汚すっていうニュアンスも、自分の価値観を皆に見てもらう内の1つ。だから、手縫いをするとか、あえて刷ったプリントを乾かさない内に洗っちゃうとか、作品たらしめる呪文をかけているんです。
金森:先ほど少し話がありましたが、学生の時代は、何をやっていたんですか?
飛田:大学時代からもっと遡ると、中学の卒業文集にはファッションデザイナーになると書いていたらしいです。
いつも親が作った服を着せられてやだなって思っていた時もあったんだけど、西城秀樹になりたいって言ったら、母親が、かつらまで用意してくれて、しましまのパンタロンも作ってくれたことがありました。そこから、いろんな人になりたい時期が続いて、ファッションはずっと自分の中に、ありました。
だけど、美大に行きたいって言っても反対されて藝大だったらいいよって言われて4浪したんです。浪人中、グラフィックデザイン、彫刻、現代アート、伝統工芸とか色々見て、あの時が一番勉強したと思います。それで、たまたま受かった多摩美のテキスタイルで、布をいじったりしてました。
だけど、洋服は作ってなくて、バンドをずっとやっていました。ちょうどクラブが全盛の時期で、イベントを企画したり、DJを呼んだり、そういうことをやって4年間過ごしていました。就職活動とか全然しなくて、僕はバイトを続けてでも、バンドマンでいたいと思ったのに、それもなかなか上手く行かなかった。その時「俺、洋服作りたかったんだよな」って思って、親に頼んでミシンを手に入れて縫ってみたら、面白くて、そこから洋服を作るようになりました。
金森:うんさんから見ると、こういった発表の仕方はどうですか?
山田:私、洋服を素敵だなって思うポイントは、デザインや色よりも、洋服の持っている「気」みたいなものなんです。だから「これとこれは似ているけど、これはどうしてもなんか違う」っていうのがはっきりしていて、その出会いが生き物みたいな感じなんです。
さっきおっしゃっていた、柄が違うけど返品がないっていうのは、その通りで、デザイナーさんの魂みたいのが込められていれば、「ピンクがなくてもOK」みたいな感じなんだと思います。
このパフォーマンスでは、永遠にプリントされるものが一瞬芸で見せられていますよね。ラジオで社会の音を聞きながら、その場に居る全員で共有した空間で作ったプリントって不思議な気が宿ると思うんです。そういう洋服は、ちょっと期待しますし、興味がありますね。
飛田:そこそこ。神様が降りてくるって言ったけど、「えい」って版を開いた時、落ちちゃいけないところにポトリとインクが落ちて、だけど、それを見て「きたーっ」って鳥肌が立っちゃうことってあるんです。そこはパフォーマーと同じだったかも。
山田:そう。パフォーマーはすごく見られているんだけど、パフォーマンスする側も周りのことをすごく見るじゃないですか。だから、見られている、見るというのは交換している。その緊張感は、稽古場とかじゃなかなか作れないですよね。
飛田:ライトあたって「やべぇ」ってなって開き直るんですよね。
金森:飛田さんはライブの人なんですね。
※後半に続きます。
writer profile
1992年生まれ 後楽園⇔神楽坂他 ドリフターズ・マガジン編集長