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Rules and Regs with ST Spot

「Rules and Regs with ST Spot」 参加アーティスト:Ira Brand、FrenchMottershead、危口統之(Noriyuki KIguchi)、Matthew Morris  公演日程:2013年2月9日(土)10日(日) 発表会場:神奈川芸術劇場(中スタジオ) (左記写真、撮影:松本和幸)
 

 

 

 

 

 

 

 2013年2月10日の午後、「Rules and Regs with ST Spot」なるパフォーミング・アーツの公演を見るために、横浜市にある神奈川芸術劇場に足を運びはしたものの、これがいったいどういうたぐいの公演なのか? 事前の段階の僕はさっぱりイメージできていなかった。公演情報には「ルールズアンドレグスは英国を拠点にアーティスト育成のための滞在制作を企画運営しています。今回はSTスポットとの協働のもと横浜で1ヶ月の滞在制作を行います。英国より3組のアーティストとディレクター、日本からは危口統之が参加し、いくつかのルールをアーティストが共有し、それぞれの作品を製作、発表します。」と書いてあるんだけれども、これを読んだところでどんな具体的なイメージも僕も中で結ばれてこない。もしかしたら観客が四つの作品を歩いて見て回る、みたいないわゆるインスタレーション形式の展示なんじゃないのかとさえ思った。

 さすがに「公演」と銘打たれているだけに、それはなかった。上記四組のアーティストがそれぞれ三十分程度の作品を、順番に発表していく。全員、とある共通のルールに従って作品をつくっているらしく、そのルールというのは、以下の四つ。「Attack! -取りかかれ!」「Find the stage. – ステージを探せ。」「Balance – バランスをとれ。」「You also are here – あなたもここにいる。」

 さて、一番目の French Mottershead のパフォーマンスは観客参加型。パフォーマーは声を発することがなく、観客へのメッセージや指示の書かれたフリップをめくっていく。簡単なストーリーの場面場面に合わせた効果音を、観客の誰かもしくは全員でつくりだしていってシーンを成立させていく、という趣向。森の中の鳥のさえずりは、みんなで口笛をピヨピヨッとやって表現。足音、風の音、ドアのノック、などは、指名された観客が、舞台上にあらかじめ用意されたちょっとした道具を使って、パフォーマーの出すキューに合わせて出していく。こういったことが、三十分ばかし。

 

撮影:松本和幸

 

 二番目の Matthew Morris は、冒頭で挨拶もそこそこに、これからコイントスをするけれど、表が出ると思う人は立ってください。裏が出ると思う人は座ったままで、と言う。僕は座ったままでいたけど、結果は、表。正解者たちは、舞台裏のほうへと連れて行かれていった。そっちにも、もうひとつの舞台と観客席があるらしい。Matthew のコイントスは続く。というのもそのあとの彼は計十回の短いパフォーマンスを行ったが、表が出たときは、正解者たちのいる舞台のほうで、裏が出れば僕たち不正解者たちの側で、それを披露したのだ。裏が出たとき、彼はそのつど衣裳のつなぎの作業服を脱ぎ、全身に施されたタトゥーの見える下着一丁姿になって、自作のテキストの朗読をした。それが終わると服を着て、またコイントス。表が出たときのパフォーマンスは、ダンスだったらしい。そのときもつなぎを脱いでいたのかどうか、聞きそびれた。

 

撮影:松本和幸

 

 三番目の危口統之は、一種のレクチャーパフォーマンス。レジデンシー・プログラムに参加するアーティストが、プログラム主催者たちの言うことを聞いてそこそこのアウトプット(まさにこの日のパフォーマンスのような)を出し、そんなこと続けてるうちにみるみるスポイルされて、やがてゾンビみたいになっていく、という揶揄的な内容。彼はなにより自分自身のことを揶揄しているので、最後には本人をかたどったゾンビ人形が出てきて、それを糸を引っ張ってピコピコ操る。

 

撮影:松本和幸

 

 最後の Ira Brand のパフォーマンスは、舞台裏にあるもうひとつの舞台のほうに移動して展開した。客席を飛行機内の座席に見立て、飛行機事故という主題をめぐって、いくつかのトピック、エピソードがパフォーマンスによって示される。でも正直な話、この時点で僕はこの公演じたいにかなり食傷状態になってしまっていた。

 

 

撮影:松本和幸

 観客参加型でありながら、観客に無理強いする感じのまるでなかった French Mottershead の人柄や、オーガナイジングの巧みさには感心した。Matthew Morris は、パフォーマンスの冒頭では英語だけでなく日本語でも説明をしてくれたし、自分をさらけだして朗読やダンス(僕は見れてないけど)を披露してくれた。感謝している。危口統之の、この企画事態への疑問を正直に表明してしまう誠実さと、その誠実さゆえに、じゃあ何をやればいいのかもう全然わからない、というスパイラルに向かってしまう事態にユーモアを忘れず直面している姿勢にも敬意を表したいし、比較的飛行機によく乗る人間である僕としては、Ira Brand の作品の主題は、それなりに興味深かった。彼女が日本酒の750mlの瓶を一気飲みする場面があって、僕は顔をしかめつつその根性のすごさにやっぱり敬意を払いたいと思った。

 それでも、この公演を見終わって感じた率直な感想は、「うん、だから何?」というもの。この公演は、その場かぎりの不毛な茶番であったと思う。アートの文脈の中で行われないほうがよっぽど効果を持つアート、というのがあるはずで、この公演は、たぶんそういったものになりえるはず。それなのに、アート文脈の中で(国際的な舞台芸術イベントの一環として)行われ、これ以外の上演機会が設けられているわけでもなく、という現状を目の当たりにして虚しい気持ちになってしまった。劇場における公演、という形態がこの企画にとって最良だとも、必要であるとも思えなかった。

 劇場の中で行われているアウトリーチ、といった感想も浮かんだ。それはおもいっきり語義矛盾しているんだけれども。

 

 

 

 

   TPAM in Yokohama 2013(国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2013)→http://www.tpam.or.jp/

     TPAMディレクションPlus:Rules and Regs with ST Spot→http://bit.ly/SSD9WT

     STスポット横浜→http://www.stspot.jp/index2.html

writer profile

岡田利規
1973年 横浜生まれ。演劇作家/小説家/チェルフィッチュ主宰。活動は従来の演劇の概念を覆すとみなされ国内外で注目される。05年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月『クーラー』で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005―次代を担う振付家の発掘―」最終選考会に出場。07年デビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を新潮社より発表し、翌年第二回大江健三郎賞受賞。2012年より、岸田國士戯曲賞の審査員を務める。2013年には発の演劇論集『遡行ー変形していくための演劇論』を河出書房新社より刊行。