1. top
  2. > magazine top
  3. > インタビュー
  4. > Sound Live Tokyo 2013 サウンド・アーティスト Christine Sun Kim

Sound Live Tokyo 2013 サウンド・アーティスト Christine Sun Kim

先天的に耳の聞こえないサウンド・アーティストChristine Sun Kim(クリスティン・スン・キム)がSound Live Tokyo 2013に参加するため初来日をはたし、2013年10月5日、上野恩賜公園野外ステージで体験型サウンド・パフォーマンスを披露した。今回、ドリフターズ・マガジンはChristineにメールインタビューを行った。
 

 

 

 

 

 

クリスティン・スン・キムは、NY在住の新進気鋭のサウンド・アーティスト。
Sound Live Tokyo 2013の参加アーティストの1人として初めて来日し、パフォーマンスを行った。

 

先天的に耳の聞こえない彼女は、独自な方法で音へのアプローチを繰り返す。そのアプローチを通し聞き方を学び、自らの「声」を獲得してきた。
過去の作品では、聴覚から視覚への翻訳を中心にサウンド・アートを展開し、日常から周囲の人々の反応をマネすることにより、音がもつ社会性「サウンド・エチケット」を身につけてきたという。

近年、クリスティンは、自身の経験を反映したサウンドそのものの社会性を探究し、その限界を解体する作品を発表している。

 

今回のメールインタビューでは、Sound Live Tokyo2013でのパフォーマンス「主観的音量」を中心に話を聞いた。

 

<音と社会性>

「音はとても高価なもののように感じます。」

 

「「音」はサウンド・アーティストのあなたにとって何を意味するのか」と聞いたところ、このような返事が返ってきた。

 

「音は、非常に様々なことをコントロールしています。
そのため私はパフォーマンス、絵、トークでその音の力、権力と接し享受しています。

仮に、この世が音によってこれほどまでに支配されていなかったら、音をアート作品として使用しないでしょう。」

 

彼女は、音がどれだけ社会の中に偏在していて、人間が非常に頼り切っている情報源であるかということ、社会規範と切っても切り離せない深い関係性をもっていることを理解していると述べ、こう続ける。

 

「私が初めてアートとして音に興味を持ったとき、音と声に関して自分がどれほど制限されていたか気づいたのです。
そして、音や声にまつわる社会規範について、より意識的になりました。
それらのルールは私の考えとパーソナリティーに深く根づいてしまっていたので、まずは、そのルールを壊すか、それとも捨て去るかのどちらかをする十分な勇気を積み上げることをはじめました。」

 

<日本でのパフォーマンス>

クリスティンは日本でのパフォーマンスをこう振り返る。

 

「私の第一言語はアメリカ手話で、英語は第二言語だと思っています。そして観客は英語のネイティブスピーカーではありませんでした。今回の、こうした環境が私たちに自動的に、いっそうボディーランゲージに頼るようにさせたのだと思います。
観客の大半が英語を喋らない場所でパフォーマンスを行うのは、実は今回が初めてでした。
アメリカ以外ではオスロとベルリンで公演を行いましたが、観客は英語の指示を理解することはできたので。」

 

 

Photo : Hideto Maezawa

 

パフォーマンスのテーマは「主観的音量」。
彼女の多くの作品同様、今回も観客体験型の実験的パフォーマンスであった。

 

ステージ上には、パソコンから送信されるクリスティンの指示が同時通訳により日本語と英語で表示される電子掲示板が配置されていた。

はじめに観客は、1人1人異なる番号が書かれた紙と、プログラムの説明が書かれたオレンジ色の紙を渡された。

オレンジ色の紙には「静寂を主観的なもの、音量を客観的なものととらえていたことに気づき、音量について考えれば考えるほど、それは静寂と同じく主観的なものであると思えてきた」というクリスティンによる説明が書かれていた。

 

オレンジ色の紙を観客が一通り読んだ後、1から100までの番号をもった観客は、観客席前方のマイクが設置された席へ移動するよう指示された。

 

観客が席につくと、クリスティンは、「洗濯機」「エアコン」といった、70~90B以上とみなされる音を発生するもの単語が書かれた紙を、何人かの観客に渡した。そして彼女の指示する方向にその紙を順番に回し、そこに書かれた単語を、日本語か英語どちらか選び発声するよう指示した。

 

上野恩賜公園野外ステージは、80dB(デジベル)以上の音量を禁じている。
彼女はそのことを知った後、インターネットで、70~90dBの音量を発生させる様々な実例、共同体、産業、家庭に基づく音を調べたという。
そこから観客に手渡された紙に載っている「洗濯機」「エアコン」「人通りの多い街路」「バンド」「パトカーのサイレン」といった、70~90dBの音を発生する単語をピックアップしたそうだ。

 

 

会場のサウンド・エチケットに反抗したり、それを転覆したりする代わりに、観客と一緒にこのリストを、楽譜へと変容させたい、自らが指揮者となり身振り手振りやテクストを用いて、観客とコミュニケーションをとり、みんなの声を借りて、「話し言葉の制度から外れていこうとする試み」をしたいと、彼女は観客に伝えた。

 

Photo : Hideto Maezawa

 

クリスティンは、1から100の番号をもつ観客の集団に向け、「センタ・・・・・・・クキ」のように音の文節をわざと変えて発声するよう、また時に、もっと早く遅く、そしてその単語のもつ音の強弱を意識的に発声するように、と指示を繰り返し、何パターンか繰り返すよう指示した。最後は、その単語、例えば「洗濯機」という単語から、その実物が発生させる音を想像して発声するよう指示し、前半は終了となった。

 

番号が100以降の人は、自由に席の回りを歩き回ってよいとされ、会場に響き渡る声を体験する。パフォーマンスの中盤で1から100までの番号の人と、それ以降の人で、役割を交代した。

 

「今回のみならず昔から、私のアートを損なったり妥協することなく、聞こえる参加者と聞こえない参加者の両方に適するものになるように、パフォーマンスを概念化することに努めてきました。」

 

パフォーマンスでは、日本人の聴覚障害者の集団が、パフォーマンスをスムーズに進行するため、他の観客の参加を積極的に後押していた。

 

「観客の中に日本人の聴覚障害者のグループがいました。彼ら自身の声(それは私にとって大変政治的な媒体です)を使用して参加する代わりに、私が観客に指示を出すのを手伝ってもらうという選択肢を提供したのですが、彼らはとても協力的で、自身の音(声、自身の音、雑音)を代わりに使うと言ってくれたんです。

 

パフォーマンス後に、耳の聞こえる観客の何人かに、最初は恥ずかしかったけど、聴覚障害者が健常者に混ざり、自由に発声するのを聞き安心した、落ち着いて参加できたと言われました。聴覚障害者のスピーチには境界がないからです。
なので、耳の聞こえる観客も、指示に従ってもっと声を出そうと感じたそうです。」

 

<音への制限、コントロールからの解放>

Photo : Hideto Maezawa

 

クリスティンの、音の従来の制限から解放され、耳からだけなく自由に音をとらえてほしい、という考えは、ステージ上の彼女からの指示、

 

「To me sound does not mean you have to actually listen with ears」
私にとっては「音」は「耳」で聞かなければならないことではありません。

 

「I often think speech limits the frame of sound. It is important to consider the sonic materiality of sound.」
言葉が音の枠組みを制限すると思うことがよくあります。音の物質性を考えることが大事だと思います。

 

からも、感じ取ることができた。

 

「聞くということが、どれほど重要であるかこれまで私は学んできました。
音を聞くやり方は音の解釈につながります。なので、ほとんどの場合、音を「どのように聞くか」が問題だと思うのです。

「聞く」という行為には何百万通りの方法があり、私はそれを広い「音域」とほとんど同様のものと見なしています。
赤ちゃんが生まれるとき、彼らはできるかぎり可能なすべての音を出します。
しかし、成長するにつれ、彼らは自分の声と雑音を、ある一定の方法で、周囲にいる人にとってもっとも適切なものとしてどのようにコントロールしフレームするのか、を学びます。
なので、このパフォーマンスでは、私は人々をウォームアップし、声から言葉を形成することを考えずに発声できるようになってほしかったのです。
それは、ある一定の長い時間カップを見つめ、カップがカップではなくなり何か別のものとなるようなことであると思います。そのような類の経験を、観客してもらいたいと願っています。」

<音の主導権の転移>

Photo : Hideto Maezawa

 

クリスティンはパフォーマンス後の質疑応答で、本作品を、「耳の聞こえない人が、普段音をコントロールしている人たち(聞こえる人たち)の「音の主導権」を握る、逆転的な挑戦。」と説明していた。

 

「私は生まれながらにして耳が聞こえないにもかかわらず、その音が適切か、適切じゃないかを知らなければいけません。これは皮肉だと思いました。
今回のパフォーマンスは、私にとって、観客の響き渡る声を自分の声として、実際に立場を逆転させて使用する良い方法でした。
それは私にとって、自分の声をコミュニケーションするツールとして使用せずに、社会での自分の立場を合法化する、多くの方法のうちの1つでもあるのです。」

 

<自身の音のコントロールのとりかた>

このように、パフォーマンス内で会場の音をコントロールし、音に対して自由なアプローチを指示していた彼女だが、自身の音をコントロールする仕方についてはこのように語ってくれた。

 

「私は「いびきをかく」「泣く」といった自分ではコントロールような音を今でも出しています。とても感情的になった時、私は自分が気づかないうちに音を発しています。怒るとうめき、興奮すると金切り声。他にもたくさん。
でも意識できている時は、自分の呼吸音は大きいので、呼吸を少なめにしようとしたり、歩く音などをあまり出さないようにゆっくり動くようにしています。
身振りをする際、少しだけ声を出せたら、と思います。なぜなら、そっちの方が自分自身の身体との関係をより感じられるからです。けれど、そこら中に遍在している音のルールのため、礼儀のために、手話をするときには声を使用しないように努めています。」

 

<サウンド・アーティストとして>

彼女にとって、音と向き合うことは、アーティストとしての終わりのない道のりであり、その探検はまだ始まったばかりである、と彼女は語る。
それらが本当に何を意味するのか、もしくは意味をしないのか、正確に理解するにはもっと時間がかかるという。

 

実際にパフォーマンスを体験した身として、クリスティン・スン・キムは「サウンド・アーティスト」としての印象が色濃く、音に向き合うことがやはり彼女のライフワークであるという印象を強く受けた。
そこから、生まれつき耳が聞こえない、という側面がどれほどまでに彼女の作品作り、人間形成に影響を与えているのかが気になった。
しかし、彼女の耳の不自由さが作品に多大な影響を与えているにせよ、彼女の貪欲な探求心こそが、彼女のクリエーションを支えているということも感じられた。

 

「アーティストには伝えたいこと、言いたいことがいっぱいあると、よく私は思います。
確かに、難聴は私の実践ととりくみを特徴づけていますが、それを定義するものではありません。
また、近年、幸運にも、このように、遠くそして広く旅行する機会に恵まれています。
「Newness」、「新しさ」が、私の好奇心を掻き立てつづける、保っているものでもあるのです。」

 

 

 

 

トップ画提供:Hideto Maezawa

「Subjective Loudness 主観的音量」

会場:上野恩賜公園野外ステージ(水上音楽堂)
コンセプト・出演:クリスティン・スン・キム
舞台監督:遠藤豊
音響:堤田祐史、牟田口景
照明:山下恵美
翻訳:新井知行
同時翻訳:中保佐和子
手話/音声通訳:下谷奈津子

 

 

<プロフィール>

 

Photo : Ultimafestivalen, Henrik Beck

 

クリスティン・スン・キム
1980年カリフォルニア州オレンジ郡生まれ、現在ニューヨーク在住の韓国系アメリカ人アーティスト。Rochester Institute of Technology、School of Visual Arts修士課程、Bard College Milton Avery Graduate School of the Arts音楽/サウンド部門修士課程修了。生まれながらにして聴覚を持たないが、サウンド・アートに取り組み、「音の所有権」「社会通貨としての音声言語」「サウンド・エチケット」などのテーマにパフォーマンス、インスタレーション、レクチャーを通してアプローチ。2枚組7インチレコード『Panning Fanning』もリリース。ホイットニー美術館にてエデュケーターも務める。ニューヨーク近代美術館(MOMA)で2013年8月から11月に開催された「Soundings: A Contemporary Score」展に出品。

 

<Sound Live Tokyo>

 

 

参加アーティスト:アント・ハンプトン、ティム・エッチェルス、倉地久美夫、マヘル・シャラル・ハシュ・バズ、飴屋法水、工藤冬里、クリスティン・スン・キム、大工哲弘、アヤルハーン、鈴木昭男、灰野敬二、松崎順一、小林ラヂオ、堀尾寛太、嶺川貴子 ほか

会期:平成25年(2013年)9月21日(土) 〜 10月6日(日)

会場:東京文化会館、東京キネマ倶楽部、上野恩賜公園野外ステージ(水上音楽堂)、東京都立中央図書館、スーパー・デラックス、VACANT

主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、国際舞台芸術交流センター(PARC)

後援:ブリティッシュ・カウンシル、J-WAVE

協力:東京都立中央図書館、公益財団法人セゾン文化財団、日本口琴協会

 

 

 

 

 

 

 

writer profile

樫村有紀 (かしむら ゆき)

1993年生まれ 上智大学在学中