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美術家 山城大督「映像の文法を拡張させたい」

今年で4年目となる、アサヒ・アートスクエアのGrow up!! Artist Project。これは、すでに発表実績のあるアーティストを迎え、1年間かけて、自身の表現と向きあう期間をサポートする企画だ。2013年に選出されたのは、美術家・映像ディレクターの山城大督さん。この1年間、アサヒ・アートスクエアで、どのように自分と向き合ったのか、そして、12月19日から23日まで開催される展覧会『VIDERE DECK/イデア・デッキ』では、どのような表現を社会に提示するのか、話を聞いた。
 

 

 

 

 

金七:今日はよろしくお願いします。まず、山城さんが、Grow up!! Artist Projectに応募した理由を教えてください。

 

山城:僕は、Nadegata Instant Partyというアーティスト・ユニットの活動にここ数年、力を入れてきたんですが、その反面、自分の作品作りにあまり取り組めていなかったんです。作品数も多い方じゃないので、こういう機会に、自分のことを知ってもらったり、自分自身でも知ったりする機会になったらいいな、と思いました。

選考委員の方は、「山城くんは悶々としていたから、その熱を感じて、採用したよ」と言ってくれて、応募したときは、「これから僕の表現をどうしたらいいかという表現者なら誰にでもある不安が高まっていた時期だったんだろうと思います。

 

 

金七:それからの1年間は、このアサヒ・アートスクエアでどのような活動をされてきたんでしょうか。

 

山城:実際に「東京映像芸術実験室」という名前で企画が始まったのが、3月の下旬からです。スタッフの方と、どのように進めようか話をして3つの事を決めました。1つ目は「映像への対話」というテーマで、様々な人と話をすること。2つ目は自分の構想している作品のプロトタイプを作る「映像実験室」をやること。そして、最終的に報告会を開くということを決めました。この報告会が、12月19日から『VIDERE DECK/イデア・デッキ』というタイトルで開催する展覧会のことです。

 

 

金七:「映像への対話」や「映像実験室」では、どのような事をされたんですか?

 

山城:「映像への対話」は、主に、自分の作品に近い人や興味のある人と話してきました。皆が映像をどう捉えているのかや、作品の作り方も違うのがわかって、この実験室はどこかで続けていきたいと今は考えています。

 

「映像実験室」では2つのモニターを対面に置いて、人を撮影して会話させる、などの実験をしてみました。これは、例えば映画で、2人の登場人物が会話をしているシーンだったら、それぞれ1人ずつが写っている場面を切り替えながらやったり、2人が同時に映るように撮ったりするんだけど、それはシングルチャンネルだからなんです。そうじゃない映像の文法を作れないかな、と思ってやってみたのが、モニターを2つ対面させるマルチチャンネルの方法です。あとは、思考実験みたいのも多かったかな。いろんな人と話しながらやったり「こうなったらどうなるかな」みたいのを繰り返したりしました。

 

アーティスト 小泉明郎さんとの「映像への対話」の様子

 

アーティスト 奥村雄樹さんとの「映像への対話」の様子

 

ぼんやりと1枚の四角いスクリーンの中で作るというイメージが映像に対しては、今でもあるんだけど、それをなんとか、別の違う形で提案したいと思っていたんですね。たとえば、映像の中にあるコップと、全く同じコップが現実世界にもある場合、目では「あっちのコップが映像で、こっちのコップが現実」というのは区別できるんだけど、それがどんどん、よく分からなくなってきたり、現実にある物も映像の中の物のように思えたり、オブジェとか光とか複合的なメディアで映像的な時間を、アサヒ・アートスクエアの中で作りたいと思いました。でも、最初は全然どうすればいいか分からなかったです。

半年間くらい全く順調ではなく「1歩進んだ、また1歩、むしろ-1歩にまで下がった」と、ウジウジしていたんですが、ちょっとずつどうすれば良いのか、分かってきたんです。最後の半月で、6歩くらい進んだ感じですね。

 

 

金七:展覧会について、お話を聞きたいと思います。1年間、色々と試されて、今回の展覧会での作品は、どのようなものになったのでしょうか?

 

山城:当初、3作品くらい作る予定だったんですが、少し前に4日間、アサヒ・アートスクエアにこもって、現場で実際に物を並べたり、音を鳴らしてみたりしたんです。その期間中に、朝、スタッフが来る前の2~3時間、1人きりで考える時間があったんです。その時に、「これは行けるな」というのが見えた瞬間があったんです。作る方向性が見えたとても大きい発見でした。その発見から、メインの作品である『The Mirror Stage』だけにすることにしました

この作品では哲学者のジャック・ラカンが唱えた「鏡像段階」という概念を用いています。

これは、幼児が、それまで鏡を見てもそれが「自分」であることが分からなかったのに、ある時、鏡を見て「私はこの中に入っているんだ」と理解することです。大学生の頃に授業で、この話を聞いたとき「なんだか、これは映像に近いなぁ」と直感的に思って、いつか扱ってみたいなと思っていました。

 

あと今回、この展示会場じゃないと出来ないこととして、照明を使うんです。

普段、劇場としても使っている場所なので、スポットライトを当てたり、少しずつ照明を当てたりと、空間の中の光量の時間軸を設計できるんですね。つまり、映像モニターの中だけを設計するんじゃなくて、会場全体、デッキの中全体の光を調整しています。『The Mirror Stage』は、テーブルの上に置いてある水の入ったコップが主人公なんですが、そこに実際に照明で細い光が当たるところから始まります。

空間の中に入った時、そこだけ光っていたら注目せざるを得ないし、そういう風に目線の誘導をできますよね。モニターだけを分解させるだけじゃなくて環境全体で時間軸を作っちゃえばいいんだということに気付いたんです。

 

金七:大学生の頃から、頭の中にあったモチーフなんですね。私は、山城さんに今年お子さんが生まれて、それが影響しているのかと思いました。

 

山城:確かに、息子は関係していますね。まだ鏡像段階には入ってないんですが、息子の成長を見て、その前の段階も面白いんだということが分かって、見ていてすごく楽しいですね。

これまでは、コンセプチュアルなアーティストとして生きていきたいと思っていて、「生命の喜び」とか人間臭いものは避けていたんです。でも今は、ストレートに今、自分が面白いと思っている物とか、家族のことを出してみてもいいのかなと思えるようになりました。

あとは、これ以上要素分解できないことを扱っておこうと思っています。「時間」とか「ここにあなたがいて、ここに私がいて、私は私で、あなたはあなたである」という、当たり前のようで、これ以上還元できなくてシンプルなことをテーマにしてもいいなと思えるようになりました。

複雑なフォーマットを作ろうとしているから、その分、コンテンツは、「ありがとうと言われたらうれしい」とか、本当にシンプルなことをやってみようと思っています。

 

金七:山城さんは、映画が好きで映像に興味を持ったそうですし、Nadegata Instant Partyも、コンテンツを自ら作り出してしまう、というイメージがあり、今回のように映像の文法や、マルチチャンネルなどフォーマットそのものを扱うのは、山城さんの新たな一面かな、と思ったのですが。

 

山城:Nadegata Instant Partyでやっている事は、ドキュメンタリー映画の手法を持ってきたり、ダンスのフォーマットをアートの中に持ってきたり、わざと素人っぽい劇場を作ったり、色んなフォーマットを持ってきているんですね。ただ、これまでも、そのようにフォーマットへの関心はあったけど、オリジナルなフォーマットは、まだ作ってなかったと思うんです。このようなフォーマットの問い方は今回の機会だからやっています。

 

 

金七:具体的に今回の展覧会では、フォーマットといいますか、会場の構成はどのようなものになっているのでしょうか。

 

山城:今回の会場は、入るとまず、大きな壁があって「これから展覧会見ますよ~!!」という気分になってもらいます。そこから壁の裏に回り込むと、四角いカーテンに覆われた空間があるんです。そのカーテンの中に、スクリーンや、オブジェやモニターを沢山置こうと思っています。そこに映し出されている15~20分くらいのループ作品を来場者が見ていく、という形です。僕の得意な共同創作力も発揮して、いろんな人を巻き込んでその人たちの得意技を使わせてもらいながら蓮沼執太くんや安野太郎くんの音楽や空間デザイナーの小野田裕士さんのアイデアなどを取り入れていこうと思っています。

 

 

制作の様子

 

金七:展覧会の紹介文にも「あなた自身を見る装置となり、「ここ」と「どこか」をシンクロさせる、 想像力の再生装置となるでしょう」と書かれていて、来場者自体がフォーマットに取り込まれるような印象を、文章から受けました。

 

山城:そもそも、展覧会タイトルの『VIDERE DECK/イデア・デッキ』のイデアという言葉は「ビデオ」の語源で、「自分は見る」という動詞なんです。例えば、家電量販店で、その前を通った人が画面に映るビデオとかあると変な感じがしますよね。ああいう風に、自分を見るための装置、デッキ、場所、というイメージですね。

感覚的に「自分の中の時間」というのがテーマのひとつとしてあるんです。

映画などで、A地点とB地点で、場所が違うけど同じ時間が流れていて、2画面並べたら同じ時間を過ごしているように見えたり、ひとりひとりに時間が流れているというのが気になっています。

鏡像段階も、自分の時間を見つけるタイミングの話かなと思っています。モニターが色々ある中で、色んな時間を体験したり、自分の時間ってなんだろうと考えたりとか、そういうのが出来たらいいなと思っています。

 

 

 

 

山城大督 Daisuke Yamashiro
美術家・映像ディレクター。1983年大阪生まれ。映像の時間概念を空間やプロジェクトへ展開し、その場でしか体験できない《時間》を作品として展開する。2007年よりアーティスト・コレ クティブ「Nadegata Instant Party (中崎透+山城大督+野田 智子)」を結成し、他者を介入させ出来事そのものを作品とするプロジェクトを全国各地で発表している。

 

山城大督展『VIDERE DECK/イデア・デッキ』(2013.12.19-2013.12.23 アサヒ・アートスクエア)

「ここ」と「どこか」をシンクロさせる、想像じかけの再生装置

一年間にわたる「東京映像芸術実験室」を通して独自の映像表現を探求してきた山城大督が、3年ぶりの個展『VIDERE DECK /イデア・デッキ』を開催します。
「 ある時間と時間、ある場所と場所を結びつける映像の力に魅了されている」と語る山城は、映像の時間概念、世界認識の在り方に関心を抱き、それらを多様なアートフォームに展開する作品を様々に発表してきました。ある住宅街を舞台に50人の少年少女が同時間帯に自宅のピアノを演奏するツアー型コンサート《Time flows to everyone at the same time.》(2010)や、偶然並走する電車の乗客を捉えた映像作品《TOKYO TELEPATHY》(2011)といった作品には、そうした映像的な感性を色濃くみることができます。
本展で 山城は高さ6 m 、総面積約260m²のアサヒ・アートスクエアの空間を舞台に、マルチ・チャンネルのビデオ・インスタレーション《The Mirror Stage》を主とした新作を発表します。タイトルにある VIDEREとは、VIDEO[ビデオ]の語源とされ、「見る」を意味するラテン語。アサヒ・アートスクエアの空間に広がる「見るためのデッキ」は、あなた自身を見る装置となり、「ここ」と「どこか」をシンクロさせる、 想像力の再生装置となるでしょう。今この瞬間、同時に存在するこの世界の広がりを体感する展覧会『VIDERE DECK /イデア・デッキ』をじっくりとお楽しみください。

 

グローアップ・アーティスト・プロジェクト2013 「東京映像芸術実験室」
アーティストが自らの表現ともう一度向き合い、多角的な視点 からじっくりと「考える」機会を提供する「グローアップ・アーティスト・プロジェクト」。2013年は美術家・映像ディレクターの山城大督が一 年間にわたり、様々なゲストとの対話や実験を通して、これまで 表現手法としてきた映像表現について再考する『東京映像芸 術実験室』をアサヒ・アートスクエアを拠点に展開しています。

writer profile

金七 恵 (きんしち めぐみ)
1992年生まれ 後楽園⇔神楽坂他 ドリフターズ・マガジン編集長